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ハマかぶれ日記259〜ノーベル賞に思う

 毎年恒例のノーベル賞ウィークがやってきた。昨日は物理学賞の発表。これまでの日本関連の受賞者25人のうち最大の9人を数える得意の分野であり、今年も有力候補者が何人かいて受賞が期待されていた。
 残念ながら日本人は選に漏れて、名前が呼び上げられたのはアメリカとカナダの物理学者だった。ジョン・ホップフィールド、ジェフリー・ヒントン・・まるでハードボイルド小説か映画の主役のような語呂のいい、格好いいご両人の名前だが、受賞理由が「人工知能(AI)の基盤技術『機械学習』に関する発見と発明」ときては、名前に抱くような親近感にはほど遠い。???。どうやら今、世界中に蔓延っている生成AIに至るコンピューターの画像認識能力や言語処理能力の飛躍的な発展の礎を築いた功績が認められたらしい。
 一方で、賞の選者であるスェーデン王立科学アカデミーには別の目論見もあったと推測されている。「AIの急速な発展は私たちの未来に懸念も引き起こしている。安全かつ論理的に使う責任がある」。選考委員長のコメントからは、AI 全盛の現代社会に潜む危険性に警鐘を鳴らしたいという意思が感じられた。確かに生成AIによって作られたフェイク画像や情報が混乱をもたらしている米大統領選の様子を窺うまでもなく、巷に氾濫する情報にはいつも、少なからず胡散臭さと不気味さがついて回るような気がする。IT社会から落ちこぼれた高齢者特有の僻みも少しはあるだろうけれど。
 最近、作家の五木寛之さんが自分の過去の作品を分野別にまとめて収録した全4巻の作品集「五木寛之セレクション」が刊行された。「時代がようやく追いついた」と帯に躍る謳い文句にひかされて早速、第1巻の「国際ミステリー集」をアマゾンで取り寄せて読んだら、いきなり、なるほどとうなづく作品に出会った。
 もう91歳になる作家の名前を一気に全国に轟かせた小説「蒼ざめた馬を見よ」(1967年)だ。直木賞を受賞した代表作の一つで、当然のことながらミステリー集のトップバッターを務めていた。昔、手に取った記憶はあるものの内容はすっかり忘却の彼方であり、新鮮な気分で読み進んだ。大詰め。あるロシア(当時ソ連)の作家の罪のあるなしを謎解く段階で、様々な情報が巧緻に作り上げられ、組み合わされて事件が捏造されていたことが分かってくる。無論まだAIの介在はない。出来上がった構図をAIによるものと置き換えれば、そっくり現代にタイムスリップしてくる。そんな予見性を強く感じさせるのだ。
 何が本物かわからない。何を信じていいかわからない。嫌な時代になったものだ。そのうち野球も、サイボーグやらクローンやらAIが産む選手にプレーを代行させる時代が来るかも知れない。「ニューオータニ」なんて、ホテルと間違いかねないもう一人の大谷選手が登場したりして・・。ま、そうなれば是非、わが横浜ベイスターズに籍を置いてほしいものだ。
 なんぞと都合のいいところだけ、AIの恩恵に預かろうと浅はかな夢を見たりする。王立科学アカデミーの危惧も、むべなるかな。

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