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ハマかぶれ日記263〜珍しく守り勝つ

 見事な試合だった。レギュラーシーズンを含め、今年最高の試合だったのではないと思う。昨夜、東京ドームで行われたわが横浜ベイスターズ対巨人のCSファイナルシリーズ第2戦。気迫のこもった守りで2対1で凌ぎ切ったベイスターズのパフォーマンスに「よくできました」と大きな花丸をつけたいのだ。
 セ・リーグで最高のチーム打率と得点数を誇る攻めが自慢のわが横浜ベイスターズにあって、弱点は守り。ともにリーグで悪い方から2番目の投手防御率、失策数に表れているように、僅差でせめぎ合う時に無駄な四球を与え、平凡な打球の処理を誤って落とした試合がいくつあっただろうか。それが昨夜は、ピンと張り詰めた1本の心の琴線がまるで9人に緊密につながっているごとく、ファインプレーの連発だった。
 随所に称えたいプレーはあったが、まずは先発の右腕・大貫の1球も気を抜かない神経の行き届いた投球だ。怪我や不調で2軍落ち期間が長く、6勝7敗と黒星先行の不本意な結果に終わったレギュラーシーズンでは投球内容の3割近くを占めた直球の割合をこの日は1割程度まで落とし、あとは得意のカットボールやフォーク、スライダー、カーブといった多彩な変化球を両コーナーに丁寧に散らして巨人打線を封じた。6回3分の2を投げて被安打5、失点1はを予想を遥かに超える好投。相手投手が、なかなかまとまった得点は期待できない最多勝タイトルの菅野だっただけに、値千金だった。
 戦前から戦後まもない頃のプロ野球界には、「七色の変化球」の異名を取った若林忠志投手(1908〜1965年)がいた。ハワイ移民の日系2世で現阪神の前身である「大阪タイガース」などで活躍した技巧派。異名のいわれは、直球、カーブ、シュート、スライダー、シンカー、ドロップ、ナックルの文字通り7種類の変化球を投げ分けたためだ。最近、ドロップは「落ちるカーブ」としてカーブの範疇に包含されて死後になっているから、今なら6種類ということになるが、そんなことはどうでもいい。大貫には、「新七色の変化球」の称号を捧げてもいいと考える。
 この大貫やあとを継いだリリーフ陣を助け、支えたのが内外野の守備だ。数えれば、10指に近い好場面があった。中で3つを選ぶと、はじめは6回裏。巨人の先頭打者・丸が放ったセンターへ抜けそうなゴロをセカンドの牧が逆シングルで取り、体を反転させながらジャンピングスローで1塁へ送球してアウトにしたプレーだ。
 1対0と僅差のリードの局面で先頭打者をアウトにできるかどうかは大きい。結局、その後、2本の安打で1点を取られ、同点に追いつかれており、このプレーがなければ逆転を許した可能性もあった。審判の最初のコールはセーフ。それを三浦監督のリクエストで判定を覆した。目一杯、体を伸ばして牧からのワンバウンドの送球をミットに収めたオースティンのプレーも特筆ものだ。
 次は8回裏。こちらも先頭打者・丸の、打った瞬間に安打と見えたハーフライナーの打球をライトの梶原が猛然と突っ込んで地面スレスレで好捕した。何度も繰り返された再現ビデオを観ると、グラブの先は完全にグラウンドに着いている。球を取ったというより掬った按配だ。可哀想に、丸は2本、安打を損したことになる。
 最後も8回裏。丸に続くオコエの大きく跳ね上がった3塁ゴロを、サードの宮崎がこれ以上ないドンピシャのタイミングでジャンプしてグラブの先に引っ掛けた。そしてそのまま着地し、きつい体勢から1塁に矢のような送球でアウト。何かと地味な宮崎選手には珍しい、往年の巨人の名サード・長嶋茂雄さんを髣髴とさせる華やかなプレーだった。
 無論、勝つには点が必要だから、7回表に勝ち越しの本塁打を放ったオースティンの働きは大きい。試合後のヒーローインタビューのお立ち台にもオースティンが立った。けれども、この試合に限れば、守備陣の功は海よりも深くエベレストよりも高いと言っておこう。
 正午の杉並。外は雨。今夜も東京ドームでの試合であり、天候は関係ない。ベイスターズの先発は2年目の吉野。先月から今月にかけて、季節外れの桜の開花が各地で報告された。毎朝の善福寺公園の散歩でも5、6本、白い花びらをまとったソメイヨシノを目にした。「🎵万朶の桜か襟の色〜🎵」。まだまだ実績の乏しい吉野だが、しばしば歌になる桜の名所の名に恥じない「狂い咲き」の妙を見せてもらいたい。

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