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ハマかぶれ日記290〜キャンギャルの終焉

 大晦日。いろいろなメディアでこの1年を振り返ったり、時代の区切りとなるようなトピックを取り上げたりしている。
 きょうの読売新聞朝刊(東京版)では、経済面に掲載された「『キャンギャル』廃止の波」という見出しの記事が目についた。東レとユニチカがキャンペンガールの起用を今年をもって終了するのだそうだ。両社にとどまらず、PR戦略や消費者意識の変化に合わせるように、キャンギャル廃止の動きが広がっていると記事は指摘、時代の変遷ぶりを強調した。
 キャンギャルといえば、長年にわたってスターを輩出し続けた芸能界のシンデレラゲート。記事についていた表には山口智子さん(東レ)、藤原紀香さん(同)、アグネス・ラムさん(旭化成)、松嶋菜々子さん(同)、井川遥さん(東洋紡)、鈴木京香さん(サントリー)、米倉涼子さん(キリン)などなど、錚々、麗麗たる顔ぶれが並ぶ。こうして名前をパソコンで打っているだけでドキドキしてくるぐらいだ。表漏れでは、真田広之さんの元妻の手塚理美さんも忘れがたい。
 それぞれが登場のたびに、一つの時代を象徴するような強烈な印象を残してきた。中でもハワイ出身のアグネス・ラムさん。1975年11月にライオン油脂の「エメロン・ミンキー・トリートメント」のCM出演でデビューするや、小麦色の健康な肌に豊満な肉体、たなびく黒髪、黒いつぶらな瞳の19歳の美少女は一躍、スターダムを駆け上った。ポスターは片っ端から盗まれ、サイン会には若い男性が押し寄せて警察も出動する大騒ぎとなり、ラム現象は社会的な「事件」と言われるほどだった。
 そのころは第一次オイルショックから始まった構造的な不況が続いており、社会には閉塞感が漂っていた。ラム現象は、それにわずかな風通しの穴を開けるものだったのだろう。どこへ行っても、ラムの話で持ちきりだった。当時、大学2年。学園紛争の余韻が残り休講が相次ぐキャンパスをこれ幸いに、生来の怠け癖に磨きをかけ、板橋の4畳半ひと間の下宿に引きこもって本を読む陰気なキノコ生活を送っていた。「ラム? へっ、くだらない」。硬派気取りで安酒をすすった夜を覚えている。本当はポスターの1枚も部屋に飾りたかった癖に・・。
 そんな時代のモニュメントともなるような存在が消えていくのは寂しい。寂しいけれど、記事の締めくくり部分に書かれていたように、「特定の性別や外見に依存した広告が好まれなくなる」風潮は理解できる。ジェンダーバイアスを育む要素は可能な限り消去した方がいいだろうから。
 ともあれ、ラムちゃん。小生より1歳下の68歳。人生をどんな風に総括しているだろうか。それを聞いてみたい気はする。
 昨夜は高校時代以来の悪友であるK君と武蔵境の安い焼き鳥屋で呑んだ。こちらは忌憚なく来し方を話題にできる。この日記を読んでいてくれるらしく、以前、書いたことのある、高校の時、郷里の高松で初めてのプロ野球公式戦となった大洋ホエールズ(現ベイスターズ)対中日ドラゴンズ戦を観た話を持ち出し、「あれ、授業を抜け出して行ったの?」と訊く。「いや、デーゲームで、調べたら土曜日だった。授業が終わってから行ったんだよ。サボった訳じゃないよ」。もう半世紀以上前の出来事を、ついきのうのことのように話せるのが嬉しい。
 「友人のK」といえば、夏目漱石の小説「こころ」の重要な登場人物だ。今朝、散歩をしていて急に昨夜のK君とのやりとりを思い出し、日記用に頭の中でアルファベットに置き換えたら、唐突に漱石の小説を連想した。
 「明暗」だったかなあ。首を傾げていたら、同行するパートナーが「こころ」じゃなかったかと言う。あとで調べたら、その通りだった。「さすが」なんてすぐに褒めるのは、もったいない。ご機嫌が怪しくなり始めた時のカンフル剤として、しばらく取っておくつもりだ。
 あれやこれやで、もうすぐ2024年が終わる。良いお年を。もちろん、わがベイスターズは27年ぶりのリーグ優勝、日本シリーズ連覇、確勝で。

 

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