いれいすオリ曲考察「Drowned Mermaid」
いれいすオリ曲考察第六弾はDrowned Mermaid。六鬼喝賽の青組ペア曲です。
全てにおいて最高の楽曲ですが、中でも歌詞は本当に素晴らしいです。
モチーフ
この曲のモチーフはタイトルに「Mermaid」とあるように人魚です。特に歌詞を見て行く感じ、「人魚姫」で間違いないでしょう。
まずはそんな人魚姫の物語について軽く紹介していきます。
人魚姫はアンデルセン童話の一つです。つまり外国の童話という解釈で構いません。アンデルセンは作者の名前です。
人魚姫と言えばリトルマーメイドなどを思い出す人も多いかもしれませんが、この曲はおそらく原作がモチーフです。そしてその原作がこのアンデルセン童話の人魚姫です。長い話でもありませんし図書館で探せば見つかるので一度読んでみることをお勧めします。
人魚姫のあらすじ
それでは簡単に人魚姫のあらすじを紹介します。
人魚姫は海の底で暮らしています。15歳になったら海の上の世界を見に行っても良いということになっていました。けれど人魚姫は六人姉妹の末っ子。姉たちが次々と海上へ行くのをただ見ていることしか出来ていませんでした。彼女は姉妹の中でも海上への憧れが強かったようです。
そしてついに15歳の誕生日。彼女は海の上の世界へと上がりました。そこで船を見つけ、その船に乗っている美しい王子を見つけました。そんなこんなしていると嵐がやってきて、船が大破します。人魚姫は王子を助け、修道院の側の砂浜まで運びました。その修道院の若い娘が王子を見つけ、他にも人を呼んで彼を助けました。
これ以降、人魚姫は王子に夢中になります。彼のそばにいたい、その一心で魔女の元へ向かい、人の足を求めました。魔女はその願いを叶える薬を人魚姫に渡します。ですがこの薬、色々と問題があります。一つ目は人間になったらもう人魚には戻れず、もし王子と結婚出来なかったら海の泡となって死んでしまうこと。二つ目は人間の足を手に入れる時や歩く時に凄まじい痛みが走ること。おまけに薬のお礼として魔女に声を差し出さねばなりません。
彼女はこれらを受け入れ、薬を受け取りました。そしてそれを飲み、人間となり、王子に拾われ、気に入られ、共に暮らします。海底に戻ってこいと家族が伝えにも来ますが、人魚姫はそれを拒否します。
ですが王子の最愛の人は人魚姫の他にいました。それが前述した修道院の若い娘です。王子からしたら彼女こそが自分を救ってくれた存在なんです。なにせ人魚姫に救われた時、彼は意識を失っていたので。人魚姫は彼女に似ており、だから王子に気に入られていただけだったのです。
だけど真実を伝えようにも、人魚姫は声を出せず、それ故になにも伝えられませんでした。
それから、王子は隣国の視察へ行くこととなります。視察は建前で美しいと噂の王女に会いに行くのが本当の目的ですが。だけど王子はその王女と結婚をするつもりはありませんでした。人魚姫ほど最愛の人に似ていないだろうと思っていたからです。
さあ、なんだか嫌な予感がしますね。
その予感は的中です。その王女こそ、王子の最愛の人。王子を救った修道院の若い娘でした。どうやら道徳を身につけるためといった理由で修道院に一時的に行っていただけだったようです。そして王子は彼女と結婚。
このままでは人魚姫は海の泡になってしまいます。そこで人魚姫の五人の姉は妹のため、魔女に自らの髪を引き換えに人魚姫を救うものを求めました。それは一つの短刀でした。それで王子の心臓を突き刺し、殺せば人魚姫は人魚に戻り、海の泡とならずに済みます。
だけど、人魚姫はその短刀を海へと投げ捨ててしまいました。そして、彼女は海の泡となってしまいます。
けれど最終的に、彼女は空気の精となります。一途に王子に尽くしたことが認められ、不死の魂を手に入れるチャンスをもらった感じです。空気の精となり役割を果たせば不死の魂をもらえるので。
不死の魂についてですが、人魚姫の物語では人間には不死の魂があり、人魚にはないとされています。けれど人間と愛し合えばその人間の魂をわけてもらえて、人魚も魂を得る、という仕組みです。魂が手に入れば死んでも、神様の元へ行くことができます。魂のない人魚のように消え去ることはありません。
大まかなあらすじはこんな感じです。
Drowned Mermaidの時系列としては王子の結婚が決まった後から海の泡となる直前までの話でしょう。
つまり、人魚姫の物語の中で一番辛く苦しい場面の切り抜きですね。
歌詞
最初の歌詞です。青組の力強い歌い方が死ぬほどかっこいい箇所です。
日本語にすると、「生きている理由ってなに?ねえ、私に教えてよ」といった感じです。私が時系列としては王子の結婚が決まった後であり、人魚姫の物語の最初から始まっているわけではないと考えた理由はここです。海の上へ行く前は海の上に興味津々、海の上へ行った後は王子に興味津々であり、王子に拾われてからも結婚出来るだろうと信じていた彼女がこんなことを思う時は王子と、自分以外の人との結婚が決まってしまった時くらいでしょう。
人魚って、生まれ変わりができないんですよ。魂がないから。
人魚が愛する人と愛し合えたら泡となって消えずにすむ理由はその人間の魂をわけてもらってるからなんですよ。愛し合えたら人間になれる、愛し合えなかったら海の泡となる。
つまりこの「もしも叶うのなら 生まれ変われたら」ってのは「もしも王子に愛されて、人間になれたら」という意味が裏にあるんじゃないでしょうか。生まれ変わることが出来るようになることと人間になれることは=で、人間になれることと王子に愛されることは=だから。
だけどこれはただの願望に過ぎません。「もしも」が強いように思えます。なんと言っても王子の最愛の人は自分ではないのですから。
「I wanna be by your side forever」は「私は永遠にあなたのそばにいたい」。
今は無理だから、生まれ変わったらあなたのそばにいたい、愛されたい。
だけど王子に愛されなければ生まれ変わるなんてできない。しかし王子に愛されればもう生まれ変わる必要なんてない…
実際、人魚姫は誰も頼りませんでした。ただひたすらに王子を尊重しました。
おそらく「さあこの手を握って 差し伸べた光の音」の「光の音」は教会の鐘の音かなと思いました。人魚姫の恋が終わりを迎えた時、つまり王子が王女と出会ってしまった時、本では教会の鐘の音の描写が強くあったんですよね。だけどこの鐘の音は王子と王女の婚約を祝うもので、人魚姫の「この手を握って」という思いを殺すものです。
「Drown Drown 届かぬ Trap Trap 声も」とありますが、これは人魚姫が声を出せないがために王子に「自分があなたを助けた」と言えないことではないかと思います。それを伝えることが出来ず、王子は思いを理解してくれない。だから「藻掻く」のは「独り」。「Nothing left to say」は「言うことはなにもない」のような意味なので半ば諦めている感じがあります。
「Drop Drop 隠して Drag Drag 君を 分かつ事ない」ここも王子を助けたということを王子に分かってもらえる日はこないと思っているように思います。けれど、ここまで諦めているような言葉が並べられても、「Waiting for your love」、「あなたの愛を待っている」。例えわかられなくても、いつか王子から愛をもらえると信じている。結局諦めず、王子を思い続ける。
Don't textは「メッセージを送らないで」という意味なのですが、おそらく真意は「私を愛して」じゃないかなと思いました。最愛の人に似ているからという理由でメッセージを送らないで、私を最愛の人にして…そんな思いがあるんじゃないかな、と。
だけど、「馬鹿にしないで」といいつつ、「構わない」とも言っています。正直な心境としては最愛の人のかわりでも愛されればそれで構わないと言う気持ちもあるのかもしれません。
「私はあなたに気持ちを伝えたいだけ」と「私はあなたにさようならを言うつもりはない」です。
これは関係あるかわからないですが、人魚姫って「さようなら」と言っている描写がないんですよね。別れの描写はあります。家族との別れ、王子との別れ。けれどどちらも、相手が寝ている時に勝手に消えています。そういうところも歌詞に表しているのでしょうか。
これは最も人魚姫らしい歌詞ではないでしょうか。
人の足を手に入れたけれど、歩く度に激痛が走る。だから「踏みしめる代償」。「足」と言う言葉を使わず「踏みしめる」で足を表しているのがなんだか良いです。
それから「血を犠牲に」はラスト辺りの王子を殺し、人魚に戻るか海の泡となって消えるかを選ぶの時のことでしょう。あの時の人魚に戻る詳しい条件は王子を殺し、その血を足に浴びることでした。だからこの表現もぴったりなのではないでしょうか。
ちなみに、藍という花があるようでその花言葉は「美しく装う」「あなた次第」です。痛みに耐えながら美しい人として過ごし、王子が自分を選ぶか否かで生死が決まる彼女にぴったりな花言葉です。
ここで言う「普通」は王子はもう自分を愛してくれないのだから王子を殺して自分が生きようっていう気持ちのことではないでしょうか。「君とは居られない」は王子が王女と結婚したことでもう人魚姫が海の泡となるか、王子が人魚姫に殺されるかのどちらかしか選択肢がなく二人生き残ることは出来ないからでしょう。
それから「繕えど耐えようと変われない」。どうしても王子を殺すという結論にたどり着けないことを表しているのだと思います。
それからは恋に落ちたことによる苦しみを書いています。
ここで一番不思議に思ったことは一人称です。この曲に唯一出てくる一人称なのですが、「ぼく」です。ですが人魚姫の一人称は「わたし」です。文字数的にとか、青組に合わせたと言われればそれまでですが私はどうしてもここが気になります。
ですがもしこの曲を王子視点の曲だと思うとすると、多くの矛盾が生じてしまいます。
やはり気にしない方が良さそうです。
「No escape」は「逃げ場はない」と言った意味です。
場面は王子を殺すか、自分が死ぬかといったところだと思うのでこの表現になったのでしょうか。
「I hate it」や「I wish it」が二つあったりするので、強い気持ちを表しているとかなのでしょうか…
「I mean it」が「私は本気」のような意味なのでここで短剣を海に投げ捨てた、つまり死ぬ覚悟をしたのかもしれません。自分と王子で、王子を選んだわけです。「本気」というのは王子を思う気持ちが本気だということだと思います。
「独りでに恋をして 人知れず諦めて」王子を遠くから見つけて恋に落ち、王子が別の人と結婚することで恋を諦めた人魚姫らしい歌詞です。
ここで「諦める」と言う言葉が歌詞にはっきりと出てきました。
王子のそばにいたいけれど、それができないと諦めました。王女から王子を奪うとも、王子を殺すともせず、彼女は諦めました。本当に王子が好きだったんです。
「Drown in love」、「愛に溺れる」。タイトルの「Drowned Mermaid」は泡となって消えることだけを「溺れた」と言っているわけではなく、「恋に溺れた」ことも表しているかもしれません。
諦めても、最後まで王子の愛は欲している。気持ちを伝えることも望んでいます。
この曲は人魚姫が泡になって消えたことは歌っていません。
ですがここまで状況が揃っていたら、ほぼ描写されているようなものですが…。
最後の最後まで王子を想うような言葉があるのも人魚姫らしいように思えます。
最後に
今回はDrowned Mermaidの考察でした。
物語に沿った作詞から歌い方に至るまで全てが最高の楽曲です!青25の青組は一体何処へ行ったのでしょうか。
この曲、個人的には青組の歌い方も本当に好きなんです。例えば曲の最初やサビの始まり。叫ぶように歌うところです。人魚姫の心の叫びを表しているようで好きです。それから落ち着いたところもまた良いです。求めたり、縋ったり、考えている様子をよく表されているので。この緩急最高だと思います。
最終的に私が伝えたいのは、人魚姫を読みましょう、読んでまた曲を聴きましょう、ということです。このnoteを見て、繋がりの濃さはわかったと思います。本当に、読むことをお勧めします。確実に解像度が上がります。
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