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伝えないということ

いじられキャラの友人がいる。
ただし、自称ではない。他称の、いじられキャラだ。
友人をいじる彼女らはいう。

「〇〇が可愛いからいうんだよ」
「〇〇にはそうやって言うのが普通」
「突き放すと困る顔をするから、面白い」

友人は何も言わなかった。

私は友人とよく二人で出かけることがある。
お互いに行きたいところへ誘ったり、誘われたりを繰り返して
私たちは学生という身分から、大人へと成長した。
いじってくる彼女らと友人は、時々遊びに行く仲であり
私も数回混じって遊びに出かけた。
その際に聞いたのが、上記のセリフだった。

かわいそうに。

瞬間的に頭に浮かんだのはこの言葉で、それに対して私は
決めつけてはいけない、と打ち消した。
もしかしたら、友人は友人なりに居心地の良さを感じているのかもしれない。
自分の立ち位置がわかると、時として安心してしまうことがある。
私もそうだ。
固定の位置さえわかれば、毎日そこへ流れるように身を寄せてしまう。
それと同じなのかもしれない。そう思った。

あるとき、彼女らに旅行に行かないかと誘われた。
私は一つ返事で了承し、彼女らと友人含めた複数人の旅行へ行った。
元々の目的が1つだったため、余った時間をどう過ごすかが問題になり、
彼女らは「任せるよ」と口を揃えて言ったため、私と友人が主導して話し合った。
そして、次の日のことだった。彼女らのうち、1人が発した言葉。

「つまんないなあ」
「まあ、仕方ないよ」

その旅行中の、無責任な一言。
この一言で、私はもう二度と彼女らと旅行に行くことはないな、
と心の中で縁を切った。


今思い返せば、彼女らの性格やこれまでの発言に多少なりとも
疑問を持ったことはあったのに。
今まで私が感じていた違和感が、その一言である意味納得させられた。
彼女らは、自分の快感しか考えてないのだ、と。

旅行を終え、後日友人には悪いが私は彼女らと今後付き合うつもりはない、と告げると、友人から「私も」との返答が。

そのあと、ぽつりぽつりと語りだした友人の言葉。
「変ないじり方をされると、どう返せばいいのかわからない」
「いじってもいいんだ、って思われているのが嫌だ」
「付き合いが長いから、切るに切れない」

他称いじられキャラの友人は、いじられることが嫌だった。

人が嫌なことを平気で「面白いから」と笑う彼女らは
いじめっ子とどう違うのだろう、と言いかけて、飲み込む。

だって、友人は一言も、彼女らに対して
「嫌だ」と発していないのだから。

もしかしたら、心地いい立ち位置なのかも、と私が思うように
同じことを思っているような気がした彼女らを、
一方的に悪だとは思えずに、今も

友人はいじられキャラのままなのだ。


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