恋愛小説 ⑨

「一度冷めた男は、もう二度と好きにはなれない。
たとえそれがどんなに好きな男だったとしても。」

女の子の恋心の特徴として、前、インスタかなんかで、そんな感じな投稿を読んだ記憶がある。
「私だって、早く忘れたいし、完全に冷ましたいよ。特徴に当てはまる、単純な女の子になりたいよ。」
この投稿が間違っているのか、それともわたしがかなり特異な人種なのか。正解はきっと後者だろう。そんなことはもうわかってる。
麗奈は、現在高校3年生。まさに大学受験期真っ只中。それなのに6年も前に終わったはずの恋のことを、まだ忘れることができずにいた。
一般も推薦もどちらも見据えながら勉強を重ねるが、まだ完全に集中し切れていない自分にものすごく腹が立つ。
「ここまで待って返事が来ないってことは、きっと私は振られたんだな。」
そう勝手に解釈した小6の2月、父が福岡本社への異動を告げられた。
正直、驚きだった。寂しかった。
それと同時に、彼と別れる嬉しさもあった。
あの告白以降、お互いがお互いを探り合っている感じがどうしても否めなかった。この関係を修復するのは、きっと無理なんだろうと悟った。このまま、中学に上がっても、きっと———。
そのこともあり、このタイミングで転校するのも、アリだなと思った。
もちろん、彼とはもう二度と、死ぬまで会えないけれど、それは、正直仕方がない。そう捉えていた。
「友達作りにしろ、恋にしろ、また一から新天地でやり直そう。」
そう思った。
            ✳︎ 
鹿児島を離れ、福岡で暮らし始めて一年が経った頃。
学校生活も慣れ、新たな友達もできた。
日々の暮らしも少しずつ軌道に乗ってきた。
そんな頃、麗奈は、ある男子生徒に呼び出された。
正直、何の話か、ある程度は察していた。
そして、その通りだった。
麗奈は、その子と今まで良好な関係を築けていたし、当時彼氏もいなかったこともあり、喜んでそれを快諾するつもりだった。
ところが…出ない。
なぜか、あと一歩が出なかった。
「なんで、あの時…。」
麗奈はベッドの中で考えた。
「そうだ。あいつのせいだ。全部。」
気づいたら、麗奈の瞳には涙が溢れていた。
あの時、修学旅行の前日、何度も何度も消して書いてを繰り返して、文法がおかしくなりながら夜中までかかって書いた手紙。
途中、母親に早く寝ろと注意されながらも、明日のための大事な準備がある。とウソをついてまで書いた手紙。
修学旅行2日目の夜、目も合わせることができずに渡した手紙。

「そんな手紙だったのに、あいつは返事すらくれなかった。
期限は設けないって書いたかもしれないけど、空気読んで返事してよあのバカ。ほんと最低。付き合うなら付き合うで、振るなら振るで、あの時ちゃんと返事してくれたら、もう、こんなクヨクヨせずに済んだのにさ。」
返事さえくれなかったあいつへの憎しみ、恨み、
そして、あの時の恋を忘れたようで、実は忘れていなかった自分への腹立たしさ。
「こんなことで泣くなんて、もう、嫌。」
麗奈は自分の拳を強く、本当に強く握りしめた。
でも、この涙は、行く末を知らない。まるで夕立の降った街のように、枕はびしょびしょに濡れ続け、おそらく当分は乾かない。
あいつは、本当に優しかった。
常に人のことを1番に考え、自分のことは二の次。
そんな感じのやつだった。
私も、そんな性格に惹かれて、あいつのことを好きになった。
まさにそれが、私にとっての初恋だった。
だけど、今考えると、あいつは優しすぎたのかもしれない。
だから、私の手紙に対して返事すら出してくれなかった。
私を傷つけるのが怖かったのか。それとも、結果を伝えるのがただ恥ずかしかっただけなのか。
もし返事をくれたら、私と付き合ってくれたのか、それとも振ったのか。
返事をするつもりはあったのか。なかったのか。
それがわからないから、もどかしいし、諦め切れないし、腹が立つ。
「優しさだって、時には棘になっちゃうんだよ。私はそれに、ずっと刺されて、傷を負ってるんだから。」
嗚咽を漏らしながら、麗奈は呟く。
もし今、あいつに会って話すことができるなら、そのことだけは教えてあげたい。そう思った。

翌日、麗奈は友達からの告白を断った。
「中途半端な気持ちで付き合ってもダメ。」
そう思ったから。
「少なくとも、あいつへの気持ちが完全に切れたら、次に進もう。」
その時、麗奈はそう決断した。
しかし、それから約4年が経った今でも、麗奈はまだ気持ちを完全に切らすことができていない。
それが、なんだか悔しい。
そして、嫌になる。
高校生になってから、親から許可が出てようやくスマホを手にすることができた。
そのこともあり、たまにではあるが、あいつの名前を、ネットで検索したり、SNSのアカウントを探したり、どうにかして出会う方法はないかと探してしまっている自分がいる。
もちろん、その行為が気持ち悪いことは麗奈も十二分に理解している。
当然ながら、検索結果も何も出ない。
だけど、諦めきれない。
メンヘラだの、ストーカー気質だの、他人に何言われても別にいい。
ただ、あの時の真相を知るまでは、どうしてもあいつのことを嫌いにはなりきれない。
やっぱり、一度好きになってしまった人だから。
そして何よりも、私に初めての恋のいろんな味を、身をもって教えてくれた人だから。

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