恋愛小説 ③
「えー、それでは玉城さん、みんなに自己紹介してもらってもいいかな?」
担任が彼女に声を掛けた。
彼女はそれに対し少しだけ安心したような笑みを浮かべたように見えた。
「みなさん、初めまして。お隣の宮崎県の小学校から転校してきた玉城麗奈といいます。鹿児島は初めてでよくわからないことだらけですが、よろしくお願いします。」
高めの背。整った顔立ち。etc…
間違いなかった。そして、僕は確信した。
彼女が、あの時、僕に対し学校の行き方を聞いてきたあの子であることを。そして、さっきまでアイドルの話をたくさんして、もう二度と会えないだろうと悟った、あの子であることを。
彼女が自己紹介を終え、鳴り響く拍手の音。
「県外からの転校生ということで、初めは彼女にとっても辛い部分も多いと思います。なので、みんなもなるべく早めに玉城さんがクラスに馴染めるように、仲良くしてあげてくださいね。」
転校生が来た際のお決まりの言葉を担任が口にした後、
「それでは、玉城さんはあそこの席に座ってもらえるかな?」
と担任はそこを指差した。
そこは、間違いなく僕の隣だった。
自分の苗字がた行であること。自分の隣の席が何故か空席であること。
このことから、もしかしたらということはある程度察しがついていたが、まさかあの子が来るとは。なんだか嬉しい反面、あまりの急展開に、まだ状況を整理しきれていない自分がいる。
「大丈夫?」
一応確認の意味で聞く担任。
「はい!」
それに対し彼女ははきはきとした返事を返す。
「やっぱり、どう見ても小4には見えない。あまりにも大人っぽすぎる。」
彼女が醸し出す他のクラスメイトの女子とは違う何かを、僕は幼心ながら感じていた。きっと、他の男子も同様で、それを感じ取っていることだろう。
「よいしょ。」
彼女は、背中に背負っていた赤のランドセルを静かに下ろし、僕の隣の席に腰掛けた。
1時間目が終わった後の休み時間は、男女問わずその子の話題で持ちきりだった。男子は、「めっちゃカワイイ。」
「背高っ。」
とか内輪で盛り上がる感じで、あまり積極的に話しかける勇気を持つ者はいなかった一方、女子は彼女に対し積極的にアプローチしていたように思う。そして、それに対しぎこちないながらも笑みを見せていた。女子のコミュ力の高さはやっぱりすごいなと痛感する一方、当然ながら自分にそのような勇気や行動力はなかった。ただ隣の席からひたすらチラ見するだけだった。
「さっき一緒に話したこともきっとそんなに覚えてないんだろうな。」
僕はそう思った。
その後大掃除やら新学年のオリエンテーションなどがあり、その日は3時間目で学校も終わった。
僕は学校に長居することとかがあまり得意ではなくて、その日も担任の話が終わったらすぐに帰宅しようと決めていた。
「日直さん、今日の挨拶を」
ちょっぴり長めの担任の話がやっと終わり、担任が声を掛けた。そして、その日の日直が挨拶をした。
「やっと帰宅できるな。」
僕はそう思い、机に置いていたランドセルを一目散に背負った。
その時だった。
「岡崎くん?だっけ?」
突然、彼女が僕に対し声を掛けてきた。
「朝のことかな?」僕は思い、とりあえず立ち止まった。
「あのさ、一緒に帰らない?お家近所だし。」
「えっ…」驚きのあまり声も出ない。
「帰ろうよ。朝の話の続きもしたいし。」
目をぱっちりと開けたその顔に、僕はとどめを刺された形で、僕は彼女と帰ることにした。
帰り道は、本当に楽しかった。
歩くスピードは、おそらく今までの登下校で1番遅かったと思うが、楽しさは間違いなく1番上だった。
朝の話の続きはもちろんだけど、クラスの話や、彼女のこれまでの話など、いろいろとしたと思う。
しかし、楽しい時間は本当にあっという間に過ぎ去ってしまうものである。
ついに、彼女の家に着いてしまった。
「今日も一緒に行ってくれてありがとう。明日も一緒に行こうよ。」
「明日も。別にいいけど。」
「やった。ならさ、明日の7時40分くらいにここに来てよ。」
「いいよ。」
正直、朝が弱い僕にとって、少し不安な時間帯ではあったが、せっかくのチャンスを無駄にしたくないという思いと勢いだけでOKしたのを、今でもまるで昨日のことのように思い出す。
それからは毎日こんな感じだった。
彼女の家から学校までの通学路を一緒に行き帰りする日々。
時々、家が近所の別のクラスメイトともバッタリと鉢合わせて、その後も含めて3,4人くらいで行き帰りすることもあった。
「今日はお父さんとお母さんがこの時間いないんだ。」
本当にたまにではあるが、彼女からそう告げられ、彼女の家に入ることもあった。彼女が少ないお小遣いで買ったというアイドルのグッズを見たり、適当に喋ったりして過ごしていたように思う。ただ、僕がこんな高嶺の花みたいな子と一緒の部屋にいる。しかも2人っきり。この頃の幼い思考ではあまり違和感を感じなかったが、今考えたら正直違和感しかない。
5年生への進級をきっかけに、彼女とクラスは別れてしまった。しかも、高学年への仲間入りということもあり、ボランティア活動なども始まってしまったこともあり、なかなか一緒に行く頻度は減ってしまった。しかし、休み時間とかを使ってよく話をしていたように思う。
彼女と出会った最初の頃、僕はかなりおしとやかな性格だと思っていた。しかし、実際関わって、友達になってから気付いたけれど、中身はめちゃめちゃ子供だった。心を開いた人に対してはちょっかいを出してきたり、イタズラを仕掛けてきたり。本当に無邪気だった。おそらくそこでバランスをとっていたのだろう。そう推測している。
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