恋愛小説 ⑭
僕は彼女に連れられ、ファミレスに入る。
「もうお昼食べた?」
「いや、まだだけど。」
「なら一緒に食べよ。私が奢るからさ。」
「いや、それはいいよ。玉城さん。」
「だって、お金、持ってないでしょ。ってか、ちゃんと覚えてくれてたんだ。」
彼女が安堵したかのような表情を浮かべる。
「当たり前じゃん。忘れられないんだよ。僕のせいでいろいろ有耶無耶にしてしまったから。」
「分かってんじゃん。私だって、お前のせいで、ずっとあんたのこと忘れられないんだよ。もう。」
彼女が拗ねるように呟いた。
「なんかごめん。」
「別にいいよ今更。ってか早くなんか頼もう。」
「はい。」
なんだか重い空気に包まれている最中、僕はあまり食欲が湧かなかったこともあり、とりあえず軽めのものを注文した。
本当にこれだけで良いの?と彼女から確認されたが、これ以上に食べる気力も湧いてこない。
店員さんに注文をオーダーした後、彼女が僕の瞳をちょっとだけ見つめてくる。
「言いたいことあるなら言えよ。」
僕のその言葉に、彼女は吹き出した。
「玉城って、あのいたずらっぽい性格は本当に変わってないよな。今のにしろ、バイクのにしろ。」
「そうかな?」
微笑みながら話す彼女。他人から見たら変わっていないのは明らかだが、本人はどうやらそれを自覚していないようだ。
「あのさ、ずっと聞きたいことがあるんだけど、聞いて良い?」
彼女が僕の表情を窺うように聞いてくる。
「別、いいけど。」
「私がさっき、ちょっとだけ怒ってた理由、わかる?」
あまりに直球過ぎる質問に、僕はしどろもどろしてしまった。
「分かるよ。お前にあの手紙の返事を返さなかったからだろ。」
「やっぱり、わかってた。」
「僕だってずっと、あれ引っかかって、後悔し続けてからさ。」
「それ私もだから。」
彼女にあっけなく即答された。
「そりゃそうだよな。」僕はそう思ったが、この言葉はあえて心の中に留めておいた。
「でさ、」
彼女が続ける
「今更って思われちゃうかもしれないけどさ、返事、書いてよ。」
「えっ。それ、まだ期限内なの?」
「まぁ、一応、期限、設けてなかったからね。」
「いや、ちょっと待って。突然すぎない。」
「突然すぎるって、もう6年も待ってるんだけどなー。」
いたずらっぽい口調で話す彼女
「わかったから、とりあえず僕の家来てよ。今親いないし。今日のお金もちゃんと払うから。」
「お金で解決させようとしてるのか。」
「いや、だからそういうわけじゃ。」
「ハハハッ!」
小6の時と比べて、容姿はさらに大人っぽくなった。ようやく美しさが年齢に追いついてきたような、そんな感じ。だけど、時々見せるあどけない笑顔とか、あのいたずらっぽい性格は、本当に変わっていない。
小6の時のあの面影が、まだまだ残っている。
双方が注文した料理がようやく届き、お互いに食べ進める。
「なんであんな誘拐犯みたいなことしたの?」
どうしても気になる疑問を彼女にぶつけてみた。
「だって、逃げられると思ったからさ。まぁ、ちょっと強引だったけどね。」
「ちゃんと言ってくれたら逃げねぇーよ。」
「ほんとかな?6年前は逃げたくせに。」
「いつまでいじるんだよ。」
「ちゃんとしたお返事をくれるまで。」
後で全額きっちり支払うという約束で、ここは彼女に支払ってもらい、レストランを後にした。
「後ろに座って、しっかりハンドルに捕まっといてね。」
彼女の一言に僕は従い、ハンドルにしがみつく。
彼女の運転は、免許取り立てということもあり、少々怖いところはあるが、しばらくバイクを走らせ、僕の家に着いた。
着いた後、彼女を誰もいないリビングに案内し、ソファに座らせた。
「ちょっとここで待ってて。」
「はーい。」
のんびりとした返事を返す彼女。
その間に僕は自分の部屋に入り、ある物を取ってきた。
「これだろ。これ。」
「えっ。」
彼女がちょっとだけ困惑したような、嬉しそうな表情を浮かべる。
「これまだ、持ってたんだ。」
僕が彼女に渡したのは、あの時彼女が書いてくれた、あの手紙だった。
彼女はそれを優しく取り、目で読み始める。
「なんかめっちゃ恥ずかしいな。過去の自分と対話してるみたいで。」
彼女がボソッと呟いた。
「後、今日の分のお金。はい。」
「ありがとう。」
僕は今日の食事代を彼女に手渡す。それを受け取った彼女は、今日持ってきていたウエストポーチの中の財布にしまった。
「あのさ、部屋入っていい?」
「えっ。」
まさかの問いかけに、僕は少し戸惑ってしまう。
「いやちょっと、それは。」
「いいでしょ。ねぇ。」
「いや、あまり。汚いし。」
「なんか見られたらいけないものとかあるの?」
「いや、特に。」
「なら入るね。」
「いや、ちょっと待って。」
彼女は、僕の制止を待たずに、強行した。
「えっ。普通に綺麗じゃん。男の子の部屋にしてはさ。」
「そ、そうか?ありがとう。」
「ここの引き出し開けようかな。」
「いや、そこは。だめ。」
僕は無我夢中でそこに飛び込む。
「ち、ちょっと何よ。びっくりするなー。」
「だめなんだよ。ここには機密文書がたくさん入ってるからさ。人に見せれないというか。」
「なんか逆に気になっちゃうな。」
「頼む。」
「どうせ過去の女の子との思い出とかでしょ。」
彼女が微笑みながら話す。
「いや、違う。ほんとに。」
「なら何よ。」
「だから何でもないって。そうだ。とりあえずLINEの ID教えて。携帯持ってるよね。」
その時、僕は慌てて、引き出しに指を引っ掛けてしまった。
そして、ほんの一瞬ではあるがその中身が見える状態となった。その中身は、アイドルの写真集とかならまだいいのだが、ちょっと違うジャンルのもので。
彼女はその中身を凝視する。
「え、ちょっと、どういうこと?」
僕は何が起きているのか正直理解出来ず、慌てふためくことしかできなかった。
「やばい。終わった。」
僕は心の底から思い、ひっそりと部屋を出ようとする。
しかし、すぐさま後ろから掴まれた。
「そういうの見るんだ。」
「いや、だから、これは友達から借りたやつを一時的に預かってるだけで。」
「別にいいと思うよ。むしろ男子高校生らしくて好きなんだけど。そんな嘘つかなくてもいいのに。」
「もういいだろ。早くLINE交換しよう。とりあえず。」
「でも多分親気付いてるよ。」
「そんなわけないだろ。親にはバレないようにちゃんと管理してるからさ。」
「ふーん。それならいいけどね。詰めが甘いから普通にバレてそう。それにしても、あんな感じの女の子が好きなんだ。」
また揶揄ってくる彼女。
「だから早くLINEを。」
「そんなにLINE欲しい?」
「いや、特に。」
「ならあげない。」
「いやだから、一応もらっときたいなと思って。」
「あっそう。ちなみに私は岡崎のLINEすごく欲しいけど。」
「僕も玉城のLINE欲しいよ。」
「なんだよこれ。なんかの宗教勧誘かよ。」僕は心の中で突っ込んだ。
「はい。どうぞ。」
彼女は僕に対しQRコードを見せる。
そして、2人はお互いのLINEを交換した。
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