恋愛小説 ⑥

無理だとは分かっていながらも、僕は一応足を忍ばせ、バレないように教室に入る。
他の子たちがクラスメートや、担任の先生での話題で盛り上がりを見せている中、僕は机の上にランドセルを置いた。
ちらりと隣の席に目を向ける。
隣の席には、見慣れた赤のランドセルのみが置かれており、人の姿はない。
本当に運が良かったと感じると同時に、これからどう弁明すればいいかを考える。なんだか悪いことをしてしまった人のような気分である。
しかし、時間は待ってくれない。
それから1分もたたないうちに、彼女が現れた。
「おはよう。」
「お、おっ、!。」
「さーて」
彼女がすごくイタズラっぽく微笑む。それはいつものことではあるのだが、今回はそのいつもの何倍も何倍も不敵でいやらしい。なんだか気味悪く感じてしまうほど。
「約束、果たしてもらおうか。」
話しかけてくる彼女。
寝たふりをする僕。
僕の背中をさすってくる彼女。
それでも寝ているふりをする僕。
ドン!
「痛っ!」
突然、背中に強い衝撃と痛みが走った。
僕は寝たふりをやめ、飛び起きた。
「ちょっと誰?お前かよ。」
「気づいてるくせに。」
彼女が呟いた。
「ごめん、昨日夜更かししちゃったから、今ちょっとだけ寝かせてくれ。」
当然、これは約束から逃れるために、今でっちあげた嘘だ。
「嘘つけ。」
「いや、」
「逃れられるとでも思ってるんだ。どう見ても寝たふりだったけどな。」
「ごめんごめん。」
「なら呼んでよ。」
「今時間ないから。また後で。」
「また嘘ついたな。」
怖い口調で呟く彼女を横目に、僕は外に飛び出す。早く席替えしたいなという感情を抱きながら。

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