恋愛小説 ⑧
「なんかすげぇ遅かったな。」
部屋に戻ると、同じ部屋の見慣れた友達が、僕を出迎えてくれた。
「はいこれ、水。」
「ちぇっ、水かよ。」
「ちぇって、お前100円しか渡さなかっただろ。」
「えっまじ。それからごめん。ありがとう。」
友達に動揺を悟られぬよう、いつものように気丈に振る舞う僕。
この時の僕にできたことは、本当にこれしかできなかった。返事を書くことも、それについて考えることも、あまり出来る状態ではなかった。
そこから就寝時間まで、いろいろな遊びをした記憶はあるが、正直そこからの記憶はない。
おそらくではあるが、何もかも身に入らない。そんな感じだったのだろう。友達とちゃんとコミュニケーションが取れていたかも謎だ。
2日目を終え、3日目の朝食会場
遊園地に移動するバス車内
遊園地構内
遊園地から鹿児島に帰るためのバス車内
全てにおいて、彼女と目を合わせるどころか、見ることすらできなかった。
なんだか、本能的に、彼女のことを避けてしまっているような。そんな感じだった。
分かっていた。
当然ながら、分かっていた。
ここで自分から一歩踏み出さないといけないことも、ここが今後を左右する上で、非常に重要な局面であることも。ここで何かしなければ、恋人になるどころか、今なんとか保ち続けることができている、なんでも話せる友達という関係すら破綻してしまいかねないことも。
だけど、当時の自分にはできなかった。
高校3年になった今振り返ると、自分が臆病であることを、もっともなそれらしい言い訳を付けて、正当化しているだけの話なのにね。
結局、僕は彼女に対し何もすることができず、そのまま卒業の日を迎えてしまった。
僕は、同じ学区内にある中学にそのまま進級することになった。
中学の入学式で、僕は彼女が父の仕事の都合で、再び県外に転校したことを知った。当時、お互いとも携帯電話を持っていなかったこともあり、これで彼女との連絡手段は完全に途絶えた。
それからの中高での6年間は、本当に後悔で一杯だった。
悔やんでも悔やみきれない後悔。
愚かだった当時の自分に対する怒り。
「きっと、このような気持ちを、一生抱えながら生きていかなくてはならないんだろうな。」
自分の過去の行動のせいで招いてしまったこの結果を、僕はまだ受け入れられずにいる。
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