#講義録・指圧応用実技 2024.7.10 〜補足・2年生の指圧を受けて感じたこと〜
前期15回の授業のうち、4コマの時間を使って学生の施術を受けています。1巡目はうつ伏せの下肢の指圧でフィードバックを行いました。
2巡目となる今回は、側臥位で肩の指圧を受けて感じたことを綴ります。
あまり行われない側臥位
街なかのマッサージ店に行くと、ほとんどがうつ伏せで施術をしています。もしくは、うつ伏せと仰向けの2つの姿勢です。
しかし世の中には、うつ伏せになれない人たちもいます。
それは、ぎっくり腰で辛い人やお腹の大きな妊婦さん、または圧迫骨折のリスクのある高齢者はうつ伏せにはなれません。
側臥位は、そのようなうつ伏せになれない人を施術する際に有効な肢位です。しかし、うつ伏せや仰向けに比べて施術しづらい一面もあります。
それは、ベッドとの接地面(支持基底面)が狭いため受け手の姿勢が不安定になるという点に尽きます。
受け手の施術を安静させて押圧することができれば、一人前と言えるでしょう。
側臥位で押すことの意義
学生の指圧を受けるにあたって、うつ伏せに比べて施術しづらいことを踏まえて、側臥位でどれくらい安定して押すことができているかを確かめることにしました。
押すのは、写真にあるように肩甲上部と呼ばれる場所です。
もうひとつ伝えたことは、押圧する際に3段階の圧加減を変化させて押すことです。
このように3段階の圧加減で押すことを通して、どんな工夫ができているのか、または足りていないことがあるのかを受けて確かめました。
圧加減は何を工夫していますか
3段階の圧で施術を受けたあとで、何人かに質問をしました。
「普通、軽い、しっかり、と区別して押すときに、なにを工夫しましたか?」
そう聞くと、ほぼ全員が【体重移動です】と答えました。
なるほど、たしかにその通り!
体幹が前方に移動することで、接している親指を通して相手の体表に圧刺激が入る…
その体重の移動量を変えれば、圧刺激も加減できる。
…そう考えるのは自然と言えるでしょう。
3段階の圧の違いを受けて感じたこと
ここから先は、施術を受けた私の主観になりますのでご了承ください。
そのうえで、明らかにしておきたいことがいくつかあります。
感覚はバグるもの
一つ目は、3つの圧の違いを明確に感じられる学生は少なかった、ということです。
これはどういうことかというと、それまでの授業中で【自分の押しやすい姿勢と押しやすい圧で押す】ように指導してきた私自身に原因があります。意識して、圧の強弱に変化をつけることを指導してこなかったことを意味しています。
強いて言えば、軽い圧と普通の圧は違いを感じられる人は一定数、いました。その反面で、普通の圧としっかりの圧の違いはあまり差がないように感じました。
圧刺激を変化させる順番は…
並・並・軽・しっかり・並 です。
並のあとに軽いは差をつけやすくても、軽いのあとにしっかりは変化をさせづらかったのかも知れません。
もう一つ特徴的なことと言えば、しっかりのあとに並で指圧しているはずなのに、(しっかり押している)と感じられる者が一定数いました。
並が(しっかり)に引っ張られてしまっている。
これは、高速道路を時速100kmで走ったあと、一般道に降りると持続50kmがゆっくりに感じられるため、ついスピードを出してしまうのに似ています。
感覚はバグることがある。それをどうやって安定させるかということも一つの課題と考えます。
体重移動、どうやっていますか
しっかりと圧を入れるために行うのは【体重移動】。
その通りなのですが、さらに突っ込んで「どこをどのように操作しているのか」を聞くと返事は曖昧になってしまいます。
そして、体重移動していることに変わりはないのですが、しっかり押そうとすると腕に力が入ってしまう=痛い指圧になってしまう学生もいました。
この原因は明らかで、上半身だけで押そうとしているときに力が入ってしまい、いわゆる【手押し】になる傾向があります。
正確には、体重移動=足腰を使って体幹を移動させることです。その際に、しっかりと床を踏んでいるかどうかも大切にしたい身体感覚です。
軽く押すときに起きたこと
「指圧はしっかりと押せればいいじゃないか」
そのように考える風潮があるのは承知していますが、実際の施術ではそうとばかりは言い切れません。
軽い刺激量で、体に変化を出すケースもあるからです。
そしてじつは、軽く押すことのほうがしっかり押すよりも難易度が高いと言えます。
その理由は、軽い=体重移動しない、だけではないからです。
クラスのうち、何人かは(軽く押そうとすると、四指の支えが不安定になっている)者がいました。親指で浅く押そうとするあまり、四指の支えまでなくなっていた、つまり手指が不安定な状態になっていたことになります。
授業の終わりに、施術を受けた感想を全体にフィードバックをしました。
そのあとで一人の学生さんから「◯◯さんの指圧が劇的に変わりました!」という感想をもらいました。
施術を受けたのは数分でしたが、受けることで伝えられることもあったのだとわかり、私自身も貴重な経験をした授業となりました。
余談として
巷では「マッサージコンテスト」とか「医療オリンピック」というイベントがあります。ホームページを見ると、鍼を打つ速さや包帯の巻き方を競う競技があるようです。
基準を設けて技術を競うことは一面ではよいと感じる反面、生身のクライアントさんと向き合うにはテクニックだけでは通用しない部分もあると思います。
鍼灸やマッサージは【あなたの施術を受けたい】という要素が少なからずあります。裏を返せば【あの人の施術は絶対に受けたくない】という生理的なものが潜んでいるのです。
授業ではおもに技術を教えていますが、現場に出てみれば技術だけではないこともまた興味深く思います。その点については、また機会を改めて綴って参ります。
physical, mental, spiritual and social well-beingに生きるお手伝いをしています。2020.3に独立開業しました。家族を大切にし、一人ひとりが生き生きと人生を楽しめる社会が訪れるといいなと思いながら綴っています。