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#講義録・指圧基礎実技 2024.6.5 〜背中を押すときと足を押すときの違いを工夫する〜

一年の始まりを1月とすれば、今月はちょうど折り返し地点。
しかし、4月に始まった授業という視点で見れば、スタート地点から少しだけ前に駒を進めたところです。
まだまだ基礎的なことをしっかりと身につけていく段階と言えます。

ちょうど同じ日の2年生の実技で「先生の授業は手のつくり方とか体の使い方をやっているんですよね」と聞かれました。
どういう意味かというと、腰痛を治す方法とか五十肩の人への対応はやっていないですよね、という意味が裏にあるようです。

「はい、そうです」と答えました。
2年生のこの時期は、指圧の手順と実際の体表解剖を紐付けしながら授業を進めています。そこで大事になるのは触察。

はり、きゅうの授業では、肌を露出して鍼を打ったり灸をすえたりしているため、目で見て皮膚の盛り上がりや骨の出っ張りを確かめることもできます。
一方であん摩、マッサージ、指圧は衣服のうえから(ふれて、わかる)という状態を目指すことが必要になります。
そのためにも、手指の力を抜くこと。
自分が疲れない姿勢を保つこと
は、現場に出てから1日に何人も施術をしていくうえで必須のことになるからです。

当然、1年生のこの時期も基礎を充実さえることが最優先。
授業をしていてちょうどこの時期に、やっと【指圧をするってこういうことか】とわかりかけてきた学生の表情がうかがえます。
最初は(何やってるの?押すの?)という感じだった学生たちが、少しずつプロとしての道を辿っているのが感じられるのは教師冥利に尽きます。


背中と足の違いは何か?

閑話休題。
今日の一年生の実技ではうつ伏せで下肢(足)を押すという流れを行いました。
よくある例としては、陸上選手をはじめスポーツをしている人たちのふくらはぎや太ももの裏の筋肉を押して緩めていく…という流れです。

前回の授業では背中を指圧しました。
それを絵にするとこういうイメージになります。

緑色の線が背中の表面

絵がヘタウマなのは昔から変わりません。
今から15年くらい前のこと、指圧を学んでいる学生でイラストレーターの方がいました。彼が見たらきっと笑うに違いないでしょう。

ここで伝えたいのは、背中を押すということは【比較的、平らな面を押している】という概念です。もちろん、多少の盛り上がりはあるものの、背中は広くて平らに見えます。

一方で足(または腕)というのは円柱状になっています。
ふくらはぎを押すということは、このような手の使い方に変える必要があります。

緑色の丸が、ふくらはぎ

足を押すときに気をつけること

板書の写真を見てわかるように、背中を押すときは圧のかかる親指とほかの4本の指はおなじ平面にあります。多少の角度はあるものの、ほぼ平らな面の上に5本の指をおいて指圧します。

しかし、足を押すときは円柱状のかたちを把握するところから始まります。
そのときに最初に行うのは、【親指以外の4本の指でふくらはぎの側面を支える】という操作です。これを「支え圧」と呼ぶことにします。
そして次に、親指で徐々に押圧を加えていくという動きになります。

実際の授業では、その前の段階で親指と四指の支え方、手のアーチのつくり方を指導しています。
手のアーチを作る目的は、解剖学の言葉で言えば【MP関節を安定させる】ことです。

この基礎があることで、ふくらはぎや太ももといった円柱状の部位を支えること(支え圧)ができるようになります。
MP関節を屈曲させて一定のフォームで安定させることは、円柱状の足や腕を指圧する際に必須の操作と言えます。

もうひとつ、ふくらはぎを押すときに気を付けたいのは、手首の角度です。
指先、手首、肘の角度を変えることで、親指の指紋部の当たり方が変わります。できれば、指紋部を広く当てて心地よい圧が入るとよいと考えます。
とくにふくらはぎは、すぐ下に骨(脛骨)があるため強く押しすぎると痛いところ。相手に加減を聞きながら練習をしてほしいと思います。

圧加減はどれくらい?

ふくらはぎのように過敏なところと、腰のように厚みがあるところでは当然、押すときの圧加減は変わります。
もうひとつ、施術者がおなじように押したとしても、筋トレしているAさん(男性)と運動していないBさん(女性)では刺激に対する感受性が違います。

よく例えるのは、カレーライス。
2人でカレー屋に行っておなじ中辛を注文しても、一人は辛すぎると言い、もう一人は辛くておいしい、ちょうどいいと言うことがあります。それに似ていると考えます。

辛くておいしいの基準も人によって様々なように、圧刺激による加減も相手によって変えていく必要があるのです。
感受性の異なるAさんとBさんにそれぞれちょうどよい圧刺激を入れるにはどうやって練習すればよいでしょうか?

ちょうどよい圧刺激のことを【快圧】と言います。人によって快圧は異なるのです。

そこで施術者が用意しておくのは、カレー屋に甘口、中辛、辛口があるように少なくとも3段階の圧加減で押圧ができるようになることだと私は考えています。
最初に行うのは(中辛)
自分のなかで標準的な圧加減というのを決めて、施術をします。

ファーストタッチはその圧(中辛)で施術してみて、その後に「もう少し軽い圧がいいのか」または「もっとしっかり圧刺激を入れてもいいのか」を相手に聞いてみます。
相手が(快圧)と感じる刺激量に合わせられることで、一人前に近づいたと言っていいと思います。

おまけ)下肢後面のランドマークについて

足の後面を押すときに目印となるランドマークについて、最後に触れておきます。やみくもに押し始めるのではなく、どの筋肉を狙っているのかを明確にしておくためです。
今日の授業では、わかりやすい部位をふれて確かめてから指圧をしました。

骨指標
・上後腸骨棘
・大転子
・坐骨結節

筋肉
・ハムストリングス
・腓腹筋
・中殿筋

そして、今日のバズワード
「努力よりも脱力」
老子の言葉だそうです。
指圧をするうえでも、まさにその通りと思います!!
教えてくれたYさん、ありがとうございます。


physical, mental, spiritual and social well-beingに生きるお手伝いをしています。2020.3に独立開業しました。家族を大切にし、一人ひとりが生き生きと人生を楽しめる社会が訪れるといいなと思いながら綴っています。