治療院のリアルな会話【私、強く押されないと効いた気がしないんです】
うちのホームページには「強く押したり揉んだりは一切、しません」と書いてある。
いわゆるマッサージや指圧といえば、しっかり押す、強く押せる、痛いけど効いているからガマンする、といったイメージがあると思う。
今日はそのことについて綴ります。
強いことはいいことか
ハードボイルドの映画なら、
「強くなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」
という台詞が似合うと思う。
たしかフィリップ・マーロウがヒロインに聞かれてそう答える場面があった。
しかしそれは、映画の話。
ヒトの体を施術する際には、私は刺激量は少ないほうがいいという立場でいる。
侵襲的(しんしゅうてき)という言葉がある。
外科手術や注射、鍼などの皮膚を傷つける刺激のことだ。
注射するとなると痛いのがイヤな人は目をつぶってしまうし、できれば外科手術は麻酔をするから余計に負担になるので避けて通りたい。
それに対して、非侵襲的という言葉がある。傷つけない、という意味だ。
「マッサージや指圧は皮膚を傷つけないから、安心して受けられます」とよく言う。…本当だろうか?
ヒトは刺激に慣れる生きもの
アル中という言葉を聞いたことがあると思う。
アルコール中毒、お酒がないと落ち着かないのでダメだとわかっていても、つい飲んでしまう人たちがいる。
それによって健康を害してしまう。
ヒトは刺激に慣れる生きもの、の言葉の通り、最初は缶チューハイ1本で満足していたのが、2本、3本に増えていき、ストロングゼロの本数が増えて行く…そんな話を聞いたことがある。
缶チューハイに飽きたら、ウイスキー、ウォッカなどの度数の強いお酒を飲み出す人たちもいる。
知り合いの鍼灸師でテキーラのショットで乾杯を繰り返す御仁がいるのだが、彼女の行く末がどうなるか、とても興味がある。
それはさておき、植木等の歌にもあるように。
ヒトはより強い刺激を求める生きものだと思う。
そしてそれは感覚を司る大脳のなせる技に他ならない。
いつの間にか感覚しないものは存在しないことになり、さらに強い刺激を求めることを繰り返す。
そういった人たちが通う、強押しのマッサージ店も世の中には存在している。
それを否定するつもりはないけれども、そこで働いている人たちの親指が潰れてしまうのを数多く見てきた。
酒は百薬の長という言葉も過去のものになりつつある。
アルコールの効果を研究していて、そのようなデータも出てきている。
強押しの人に何が起きているか
強くしないと効かない、という人は強いお酒じゃないと酔えないという現象に似ている。
大脳がバグっているんだと思う。
そして度を超えると体を壊してしまう。
もみ返しが起きることで組織には炎症反応が起きているのだが、それをなんだかあったかくなってると勘違いしてしまう。
そりゃ、あったかく感じるはずだ。炎症=組織が熱を持っているからだ。
しかも、怠くなる。そのことを好転反応という言葉で誤魔化してはいけない。
強い刺激に慣れていくことで、ドンドン強い刺激がほしくなる。
イタ気持ちいいを超えて、痛くしないと効いた気がしない…こうなったらマッサージ店に依存するお客さんの出来上がり。
お店の売り上げは上がるだろうけど、お客さんの体と財布にとって良いことは一つもないと思う。
強押しからの離脱を試みる
「強く押したり揉んだりは一切、しません」と書いてあるにも関わらず、稀にそのようなお客さんがやって来ることがある。それもご縁。
「首や肩が凝って仕方ないんです」
「今までいろんな整体やマッサージを受けてきました」
初回のカウンセリングでそう仰る女性がやってきた。
どこへ行ってもスッキリしないし、年々と首の痛みが強くなっていると話していた。
「軽く手をあてるだけですが」
そう断って、施術をさせていただいた。
受けている間は不思議な感覚、
むしろ何もされていないように感じたことだと思う。
それでも2回目の予約をいただいた。
2回目のカウンセリングの時に
「私、ますます強い刺激じゃないと効かなくなってきて不安だったんです」
「それが、この前受けてなんだか楽になったので不思議だなと思ったんです」
…そう仰っていただいた。
「首や肩が辛くならないように、このまま軽い施術で続けてもいいですか」
そのように了承を得て、2回目、3回目の施術を続けて行ったところ、
「だんだんと痛みの感じが変わってきました」
「少しずつ、よくなっている感じがします」
とお話しされるまでになってきた。
強押しに依存していた人が、離脱していく過程である。
目的は、強く押されて受けた気になることではなく、肩こりを繰り返さないために。
強押し大好きは大脳がバグっているだけ。
「軽い刺激に慣れていくことで、体は本来のバランスを取り戻して行きますよ」
「そこを目指して一緒にやって行きましょう」
そうお伝えして、先日も施術をさせていただいた。
穏やかに、健康に過ごせる人が増えて行きますようにと願いつつ。
physical, mental, spiritual and social well-beingに生きるお手伝いをしています。2020.3に独立開業しました。家族を大切にし、一人ひとりが生き生きと人生を楽しめる社会が訪れるといいなと思いながら綴っています。