#講義録・指圧基礎実技 2024.11.13 〜4スタンス理論を指圧実技に活かす〜
指圧やマッサージの特徴として、道具を使わない点が挙げられます。
鍼やお灸の施術では、鍼やもぐさが仕事をしてくれます。しかし、徒手療法では施術者自身の手指や体そのものが道具になる、と思っています。
どこを押すか、よりもどうやって押すか。
言い換えると体幹や手指をどのように使うか…この点こそが指圧をするうえで肝になります。
1年生の後期も半ば、指圧がどういったものかイメージが湧いてきた段階で、体の使い方を少し異なる視点から捉えなおし、自分の体癖に合った体の使い方をしましょう、というテーマで綴ります。
どうしてここは右親指を下で押すんですか?
指圧を始めて最初に抱く疑問。
それは、背中~腰までの背骨の際を押圧するときのこと。
たとえば左の腰を押すときは、右の親指を下にして重ねる…と決まっています。そのとき、床で施術しているのであれば、右膝をついて左足を前に置く姿勢になります。
さて、「どうしてここ(左腰)は右親指を下にして押すんでしょう?」
私が学生の頃に聞いた最初の答えは「そう決まっているから」でした。
「えっ…?」と思いました。
理由はないの?
おなじ質問を学生から聞かれたとき、私は「徳治郎先生がそう決めたから。」指圧学校で教員をしていた当時、そのように答えていました。
理屈を抜きにして、伝統的にそう決まっているからずっと同じように型を継承している。
例えば弓道や茶道など1,000年以上の歴史がある芸事であれば、時代の淘汰を経て【こう決まっている】と言われても、きっと納得したでしょう。
日本における徒手療法(療術など)が体系化されてきたのは、大正時代から。ここ100年ほどの流れになります。そして、それらを扱ってきた人たちの数を数えれば、十分に時代の検証を受けてきたとは思えません。
故人の業績を批判するつもりは全くありませんが、一方でその時代ごとに新しい考え方が出てきて、技術が刷新されていってよいと考えています。それは徒手療法も同じでしょうから。
習った通りに施術して腰を痛めてしまいました
うつ伏せに寝ている相手の左腰を押圧するとき、右親指を下にしましょう。
そのように口頭で伝えられ、その通りに指圧を習ってきました。学校で習ったとおりに施術練習をしていった結果、うまく押せるようになる人もいれば、なかなか手応えが得られず、またはいつの間にか自分の腰を痛めてしまった仲間もいました。
その違いって、何なんだろうか?
私自身、10代の終わりから社交ダンスを踊っています。
ダンスは全身を使う身体表現です。うまく踊れる人もいれば、私自身はお世辞にも上手と言えるレベルではありませんでした。下手の横好きで今まで続けてきた部類です。
でもときに、体の動きを工夫していると(こうやって踊るとうまくできる)と感じる瞬間がありました。
そしてその体験は、指圧でもおなじでした。
押し方を工夫することで、うまく押せたり、反対に腰や首に力が入ってしまったり…。そこには、基本の型を身につけるという基礎固めの要素に加えて、さらに別の要素が隠れていると感じました。
基本の型で身につけること
指圧に限って話を進めると、基礎の段階で身につけておくべき身体操作の技法があります。
手指をつくること
指圧界隈の先生方は「指づくり」と呼んでいます。
足と違って、そもそも手指、手のひら、手首そのものは体重を支えるための構造になっていません。
足にあって手にないもの、それはアーチ構造です。
足には内側縦アーチ、外側縦アーチ、横アーチと三つの曲面があり、これらが地面からの衝撃を分散させて体重を支える構造になっています。
「指づくり」と呼んでいるその行為は、つまり手にもアーチ構造を形成することを意味しています。
親指をほかの四本の指を対立させるようにして、手の内在筋と呼ばれる筋肉を使えるようにします。このトレーニングでは、軟式のテニスボールを使って練習をします。
これは指圧の師匠から一番最初に教えていただいた練習方法ですが、ほかにも指づくりの方法はいくつかあります。
足腰を鍛えること
床で行う施術の場合、左膝を床についたら右股関節と右膝を曲げて片膝立ちの姿勢になります。
この姿勢(足腰のスタンス)で体重移動をどうやって行うか、早い段階でしっかりと身につけておきたい動きです。指圧は(結果として)親指で押圧する手技ですが、手指の力を抜くことが奥義とされてきました。
手で押すのではなく、体幹(または体重移動)で押す。
このことが腑に落ちてわかり、自分で再現できるようになれば、現場に出る準備はできたと言ってよいでしょう。
伊藤氏の本から知った3つの動き
手技療法を始めてしばらく経った頃に出会った、1冊の本があります。
飛龍会を主宰していた伊藤昇氏が執筆された「スーパーボディを読む」というタイトルの本です。
内容はスポーツ選手や歌舞伎役者の身体操作について触れ、体幹の3つの動きを重要視することでパフォーマンスがあがる実例を記していました。
私が本を読んだ時は伊藤氏はすでに故人となっていましたが、この本をきっかけにますます、体の動きを重要視するようになりました。
四肢末端に頼るのではなく、体幹の動きと連動させて体を使う。スポーツ選手にとっては当たり前のことかもしれませんが、運動音痴だった私にとってはとても貴重な内容でした。
そのおかげもあり、体幹の3つの動作のどれを意識すると体が動きやすくなるのか。ひいては、どのタイミングでこの動きをすると指圧がしやすくなるのか…という糸口を見つけることができました。
4スタンス理論に出会う
「正しいフォームは四つある」というコピーで一時期、ゴルフの愛好者がこぞって参考にしたのが、4スタンス理論です。私はこれを本で読み、知りました。いまではYouTubeの動画やゴルフのサイトなどにいくらでも情報はあります。
4スタンス理論の特徴をひと言でいうと、足裏のどこに荷重がかかりやすいかを知ること、と理解しています。靴を裏返して底面を見ると、いつも決まって同じ場所がすり減っていませんか?
すり減っている部分に体重が掛かりやすくなっており、その場所を明確に分かったうえで一定のルールに基づいて体を使うとスイングが上達する、飛距離が伸びる…と記されています。
足裏を前と後ろ、内側と外側の4区画に分けて、4つのタイプごとに四肢と体幹の使い方について述べた内容です。
自分のタイプを知ったうえで体を効率的に使えるのならば、これは面白い!と素直に思いました。そして、この内容を応用して学生に指圧実技の指導をしてみると、面白いほどに楽に、もしくは腰を痛めずに施術ができるようになるのです。
今年の一年生の授業でも、自分のタイプ(体癖)が分かってことで、自ら押し方を工夫している学生もいました。
自分のアタマで考えて乗り越えていけることができれば、それは何よりの財産になるでしょう。
身体操作というより本質に近いことを伝えられたのは、私にとっても嬉しい経験でした。
過去にオンラインでこのような講座を行ったこともありました。
手技療法を始めて間もないうちに知っておくと後悔しない、貴重な知識と思います。(今は外部向けの講座はしていません)
まとめ
自分自身がどのタイプなのかを分析して、知ること。それに基づいて施術をすることは、自分の血液型に合った血液を輸血することに似ています。
A型の血液型の人がB型の人から輸血されたら死んでしまいます。それと同じで誤ったタイプの動きで施術をしている限り、うまく押圧できませんし、自分の首や腰も痛めてしまいます。
願わくば、自分とおなじタイプ(体癖)の師匠に巡り合えたら、素直に教えを受けることができるでしょう。または、すべてのタイプを理解して指導ができる師匠であれば、どんな体癖を持つ施術者でも一人前に仕上げることができると思います。
それを「できないのは練習が足りないからだ」と一蹴して、古典的な練習をひたすら繰り返すだけの指導方法では時代遅れだと考えます。
私自身、社交ダンスを通しておなじステップを踊るのにも体の使い方って人それぞれだし、それによって違いがあるのは表現の違いに過ぎないと認識してきました。
なにも、全員が社交ダンスを始める必要はありません。
自分のタイプを知ること、それに基づいて手指や体幹を使うことでより効率的に施術できる施術者が増えていけば幸いです。
蛇足ですが、私自身こういったメカニカルな身体操作の技法を伝えることに長けているから、今も徒手療法を教えることを仕事に選んでいるのでしょう。