"いつもどおり"ではなかった
趣味のVAPEを通じて知り合った”その人”は、会話のリズムが心地良かった。”その人”とは時間を経て”友人”となり、そして今では”親友”である。
その親友が鞄や革小物を製造販売している工房を営んでいる事を知ったのはしばらく時が経ってから。
ブランドネームは「BEERBELLY」
BEERBELLYが生み出すものは多種多様。
鞄や革小物だけでなくTシャツやフーディー、マグカップなども作ってしまう。
「こんなの作ったんだけど」と見せてもらうそれらのアイテムは自分の好みにいちいち刺さる。
「身にまとう・身に着ける」わけであるからどんどん愛着が湧く。
自分の人生の一部となる。
幸せしかない。
「リュックサック作ってみたんだ」といつもどおりのLINE。
リュックは持っている。
そう壊れるものでもないので長く使っている。
購入当時好きだった迷彩柄のそのリュックは、十年経っても変わらずカッコいいままだが、使う人”私”は前に進んでしまっている。
十年経てばもう完全に似合っていないのである。
写真で見せてもらったその新作リュックサックはシンプルな外見であった。
ごく自然に「そのリュック…欲しいかも」と返信していた。
しばらくして出来上がったリュックが届いた。
いつもどおりに箱を開けいつもどおりに新しい革の良い香りがするそれを手にした瞬間。心に衝撃が走り、なぜか普段は全く思い出す事のない言葉が頭に流れた。
それは年老いた親父が昔、車を買い替える時に言った「あと何台乗れるかを考えてコレに決めた」という言葉である。
新車で買い車検を数回通す。
もうそんなにこれを繰り返せないという事。
”ものごとの終わりから今を考える”という思考はその時の自分にはなかったので、すごく印象に残っているのである。
リュックサックはそもそも頑丈だ。
壊れにくい。
そういうものだからだ。
だからそう何回も買い替えない。
革製品は経年変化をし表情が変わる。
小さな傷やしわが味わいとなり風格となる。
年を経て変わるのだ。
変われるのだ。
自分と同じ速度で変わっていけるのだ。
このリュックサックは自分が生まれて初めて
”終わり方面から眺める風景”
を見せてくれた記念の逸品であり、忘れっぽい自分もこの記憶は一生忘れたくない。
この話を酔う度に人に話しそうで怖い。
自分が怖い。
なのでここに公開しておく。
「あぁその話?知ってるからもういい」って言ってもらうために。
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