#8 こきぷり
こんにちは、平埜生成です。
ヒラノキナリ、と読みます。
気軽に「キナプリ」と呼んでください。
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ゴキブリが出ました。家に。はじめて。出ちゃいました。ゴキブリ。出たんです。中指くらいのサイズのやつが。カサカサっと、リビングを駆けて行きました。夏ですね。
その名を出すだけでもサムイボが出てしまうほど、人々に嫌われている昆虫です。ゴキブリ。なので、この場では少しマイルドな表現にして「プリプリ」と呼びますね。
プリプリが出たんですよ。
目ん玉とびでるくらいビックリしました。先日家に現れたヤモリを外に逃さなければよかった、と後悔の嵐です。ヤモリはプリプリを食べてくれるらしいですからね。
でも、嘆いていても何も始まりません。ここからが闘いです。わたくしは、ソロソロとその場を離れ、殺虫剤を探しました。
しかし、どれだけ探しても、殺虫剤が見つかりません。
絶望しました。
なにせ初めてのプリプリの出現ですから、備えることすらしていなかったのです。ゴキブリホイホイ的なものも一切ありません。なんにもない!
それでも「遠い過去には買ったかもしれない」と希望を抱き、大汗かきながら棚をひっくり返しました。
「棚の奥からプリプリが顔を出したら、どうしよう」なんて妄想をしながら、ビクビクと。いちいち「ああ」「こりゃあ」「うほおお」なんて声を出してしまいます。恐怖に打ち勝つには、声を出すしかなかったんです。
それでも殺虫剤は見つからない。
そりゃあそうです。だって買ってないんですから。記憶にないんですから。あるわけないんです。部屋にセミが入ってきた時だって、でっかいクモが出た時だって、そのまま手で捕まえたり、ティッシュにくるんで外に逃してきたんですもの。
わたくし、頭をフル回転させます。
「お酢をかけたら有効かしら?」
「ファブリーズはどうだろう?」
「お線香の匂いは、虫に効果的だったかな?」
アイディアが生まれては、すぐに却下を繰り返していました。気付けば全身の毛穴から玉の汗が噴き出し、そして、格闘から20分。ついに最高の代用品を見つけることができました。
エアーサロンパス。
そうです。筋肉痛を慰めてくれる、アレです。鼻にツンとくるスプレーです。もちろん殺虫効果なんてありません。
でも、筋肉痛に効くわけですから。これを噴射すれば、元気なプリプリも「はぁ、気持ちいい」と気がゆるんで、動きが鈍くなるかもしれません。その隙に、掃除機で吸い込んでしまえばコチラの勝ちなわけです!
わたくしは勝利を確信し、ニヤリと笑みを浮かべながら、サロンパスをありとあらゆる隙間に噴射しました。
プシュウゥゥゥゥゥゥ。
部屋がくもります。
すごい匂いです。
静かな部屋に、鋭い緊張が走りました。
窓を開けて、ケムリが晴れるのを待ちます。きっとどこかにプリプリの死骸が転がっているはず。絶対にそうに決まってる!
しかし、プリプリは出てきませんでした。
部屋にはツンとする匂いが残っただけ。さらにはエアーサロンパスの底もつき、チェックメイトです。
わたくし、そのままスマホを開き、プリプリ対策グッズを大量に購入しました。加えて『ゴキブリ研究はじめました』という本も購入。
敵を知り己を知れば百戦危うからず、ですからね。それで、とりあえずの休戦協定。
共存という道を選択したのでした……。
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アレから何日経ったのでしょうか。
どういうわけかプリプリとは一度も遭遇していません。
はじめは「急にプリプリが出てきたらどうしよう」と恐怖に打ちひしがれていましたが、時間と共に不安は消え、気持ちに変化があらわれました。
今は……、会ってみたい、と思っているんです。
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敵の研究のために読んでいた本『ゴキブリ研究はじめました』。これに完全に影響を受けてしまいました。すごく面白かったんです。プリプリを知っていくと、敵ながら、どんどん愛らしく思えてくる。
本の帯にもありますが、知ると「嫌い」はふっとんでいくのかもしれません。
知らないから怖くて、知らないから嫌いになってしまっていた。子どもの頃は、むしろ逆で「知らないから面白い」だったのに……!
だから、今はプリプリに会ってみたい。彼をくまなく観察し、ちゃんと向き合ってみたいんです。
そして、いつか「手で掴む」ところまでいって……。
なにも知らずに嫌ってしまっていた自分を克服したい!
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ということで、2024年、夏。わたくしの〜ゴキブリ克服の道〜が始まったのでした。
本当の敵はゴキブリではなく、「内なる自分」であることに気が付きました。
がんばってまいります。
応援のほど、よろしくお願いいたします!
ではでは、また。