窃盗癖という依存症

万引きをすることが止められない。
アルコール中毒や、薬物依存症と同じように「盗む」という行為に依存しコントロールできなくなる。
警察に捕まるたびに「子どもに人のものは盗んじゃいけないって教える立場のお母さんが何やってんの」「人のものを盗んじゃいけないって教わらなかった?」そんな言葉をよく聞いた。返事をすることはなかった。

依存症、とはいえ「病気です」では許されない犯罪者でもある窃盗癖。人のものを盗み、罪悪感に苛まれ、もう2度としない、と言いながら喉元過ぎればまた何かを盗む。
今でこそ、クレプトマニア専門の弁護士も存在していても、その頃はまだ「精神疾患」などと考慮される世界ではなかった。

万引きで実刑なんて…と心のどこかで思っていた2度目の裁判で実刑1年8ヶ月の判決が下された。
長女7歳、長男5歳、次男1歳の春だった。

予約3ヶ月待ち、と言われた依存症の権威と言われる精神科医の初診に辿り着いたのは、第一審の判決が出て間も無い頃だった。摂食障害がピークだった海外在住時に、外国の本屋さんで手にしたその本の裏表紙の写真よりはるかに老けたその医師は、大きな机の向こう側から、チラッと私の顔を見たあと、分厚い私のカルテをただ黙ってめくっていた。カルテを捲る音が止まり、無愛想に見えた初老の精神科医はもう一度私の顔をチラッと見て「大変でしたね」と言った。

家族にも、事件に関わった人たちからはもちろんのこと、警察官、検察官、弁護士からでさえ「懲りない犯罪者」と否定され続けてきた万引き犯は、大変でしたね、というその一言に涙を止めることができなかった。

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