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リーズ大学研究滞在記③-2:大英図書館&ナショナルアーカイヴス調査

この1ヶ月の研究に関する最大の収穫は大英図書館とナショナル・アーカイヴスでの史料調査です。どのような手順で史料調査を行ったかを記録しておきます。なお、階数は全てイギリス式で表記します。地上階が0階、日本でいう2階が1階です。

大英図書館

キングスクロス駅のすぐ隣にある大英図書館(以下BL)は朝9:30に開きます。コンセントがある勉強スペースには誰でも無料で入れるので、9:15くらいから人が並び始め、9:25にもなると長蛇の列になります。

大英図書館ゲート

当時の人たちが書いた一次史料を見たい場合はReader’s Cardを作る必要があります。これは学生や研究者でなくても作れますし無料ですが、BL現地にいかないと作れません。入り口から右手に進み階段を登ってUpper Ground階の右端にReader’s Cardを作る場所があります。職員さんに応対してもらい、名前や生年月日を伝え、銀行口座のStatementのpdfを銀行のアプリでその場で生成して住所証明として見せました。顔写真を撮られて、その場でカードをもらいます。

その後、Lower Ground階のロッカーに荷物を預けに行きます。史料などを読むReading Roomに持ち込める物は制限されており、それ以外はロッカーに預けます。私はReader’s Card、シャーペン、パソコン、パソコンの充電器、スマホ、スマホの充電器を、ロッカールームにある持ち込み専用の透明な袋に入れて持って行きました。

Reading Roomは史料のカテゴリ別にいくつかあり、私は2階のManuscriptの部屋に行きました。部屋に入ってすぐのところに職員の人が座っているのでReader’s Cardを見せます。部屋から出るときは袋の中身を見せて、史料を持ち出していないことを確認してもらいます。

史料のオーダーはReader’s Cardを作ってからでないとできないので、ここからオーダーになります。1日にオーダーできるのは6点まで、一度にオーダーできるのは4点までとなります。1点返すと新たに1点オーダーできるようになります。

オーダーは、BLのホームページの「Consult the collection」の「Search the catalogue」をタップしたあとに出てくる画面の「this form」のハイパーリンクからオーダーフォームを開くことができます。

黄色マーカーを引いているところです

名前とReader’s Cardの番号、欲しい史料の整理番号とタイトル、いつその史料がどの部屋で必要かを入力して提出します。数分〜数十分すると、リクエストが受け付けられ、手続きされていますとメールが来ます。そのメールが来てから大体30分後くらいには史料が用意されています。Reading Room入って右手のカウンターに行き、Reader’s Cardを見せて史料をもらいます。返す時もここに返しに行きます。

史料のアクセスレベルは何段階かあります。まずは研究・教育目的の場合、写真撮影OKのものです。商用利用は全部NGです。史料を受け取るときに写真NGと書いてある黄色い栞が挟まれていますが、レファレンスの方に写真を撮りたいと伝えると写真OKの緑の栞と交換してくれます。

次に、指導教員や同僚研究者などの推薦書があれば見られるものです。これらは写真NGで、赤い栞を挟んで渡されます。推薦書はBLに行く前に大学の公的な様式で書いてもらい、①推薦者から直接BLにメール添付で送ってもらう、②こちらに一度送ってもらってから自分で送る、③手書きor印刷して当日BLに持っていくの3つの選択肢があります。私は①でした。
私がオーダーした史料でこれに当てはまるものは1つだけでしたが、写真NGのため必死で翻刻しました。

あとは、保存状況のために実物は見られず、代わりにマイクロフィルムで見られるものです。これは推薦書があってもダメで、どうしても、本当にどうしても実物が見たいなら、レファレンスの方に申し出て、学芸員の方の許可をもらう必要があります。私が見たかったのはすでに刊本になっているもので、実際にどんな字なのか、どんな余白の使い方なのかなどを確認するのが目的だったので、マイクロフィルムで十分でした。

今回のBLでの調査で難しかったのは、カタログが見られなかったことです。BLは約1年前にサイバー攻撃を受け、色々なシステムがダウンし、1から構築し直している途中です。手稿史料のオンラインカタログはまだ完成していません。カタログは本でも出版されており、通常はInternet Archivesなどで見られるのですが、さらに困ったことに、私がロンドンに滞在する直前からInternet Archivesもサイバー攻撃でダウンしていたのです。

ではどのように欲しい史料を確定し、整理番号を見つけたかというと、①ナショナル・アーカイヴスのオンラインカタログを見る、と②先行研究の註と参考文献一覧を見で選びました。①については、ナショナル・アーカイヴスのオンラインカタログには、他の文書館に所蔵されている史料も載っており、そこで整理番号とタイトルを知ることができます。②は、修論のタネ本2冊で共通して取り上げているものを選びました。

上記の方法で前もって見たい史料に目星をつけたら、マニュスクリプトを見たい人はスタッフに連絡するようウェブサイトで指示されているので、そこに書かれてあるアドレスにメールを送りました。対応してくださった方はとても親身にどの史料はどのアクセスレベルものか、どの史料群には何が含まれているかを教えてくださり、とてもありがたかったです。

Reading Roomには書籍版のカタログがずらりと並んでおり自由に見られるので、行ってから確認することももちろん可能です。

気をつけるべき点として、閉館時間があります。BL自体は20時と長めですが、Reading Roomは早いです。部屋によって閉室時刻は異なっており、Manuscriptは17時です。てっきり20時まで開いているのだと勘違いして初日はゆっくり作業をしてしまい、あと10分で閉室ですとアナウンスされた時は焦りました。

1階にあるカフェがおすすめだよとこちらで指導教員を同じくする、BLをよく知っている方に言われていたので行ってみましたが、バーガーとチップスとカフェラテで16ポンド(3200円くらい)しました。初日のランチだけ行って、あとはセントパンクラス駅内のスーパーでサンドイッチを買っていました。

Upper Ground 階にはギャラリーもあります。マグナ・カルタを筆頭に、政治関係の史料、祈祷書や宗教関係の史料、現代のものまでカテゴリ別で展示されています。ヘンリ8世が自分で考案した薬の作り方や、エドワード6世のラテン語の宿題などを見ることもできます。

ちょうど私が行った時はテューダー朝の反乱をテーマにした特設展示が組まれていました。恩寵の巡礼、ケットの乱、トマス・ワイアットの乱が取り上げられていました。ケットの乱に関する史料をオーダーするとそれは今展示されてるので、触れはしないが見れると言われて見に行きました。これで1日上限の6枠のうち2枠を潰してしまったのが悔やまれます。

1日6点というのは正直かなり少なく、まだまだ見たい史料はありますし、写真NGのものは結局翻刻しきれませんでした。2月末にもまた行って、今度はBLだけで1週間を使おうと思っています。

ナショナル・アーカイヴス

The National Archives (TNA)は、チューブのディストリクト・ラインの終点リッチモンドの1つ手前のキュー・ガーデンにあります。こちらは建物自体と0階のカフェは9時に開きますが、Reading Roomは9:30に開きます。

ナショナル・アーカイヴス

こちらはReader’s Cardがなくてもオンラインで仮のReader’s Cardの番号を発行し、史料をリスエストできます。1日あたり複数の史料群から合計12アイテムを予約する方法と、1つの史料群から20〜40アイテムを予約する方法があります。

TNAに入って左に進むと左手にカフェがあります。カフェを横目に進むと右手にロッカーの表示が見えてきます。Reading Roomに持って入れるものはBLと同じで、これまたBLと同じように、備え付けの透明な袋に持ち込むものを入れて行きます。

1階にReader’s Cardをを登録するところがあります。ここでは住所を求めたれた記憶はありませんが、あまり覚えてません、すみません……。顔写真を撮られ、その場でカードを渡されます。こちらも学生や研究者でなくても無料で登録できます。推薦書が必要な史料もありません。

私が見たい史料はほとんど2階にありました。Reading Roomの入り口にカードをスワイプするゲートがあり、そこに座っている職員さんに袋の中身を見せます。パソコンなど、折りたためて中に紙を挟めそうなものは開いてみせるように言われます。これは部屋を出る時も同じで、史料を持ち出していないかの確認です。

Reading Roomに入って机を確保します。カメラの固定台がついている机は要予約なので、それがない机を選びます。その後部屋の奥にある自動ドアの先のレファレンス室に行きます。自分がオーダーした史料の整理番号等が書かれた10センチ四方ほどの紙が史料の数だけ準備されており、名前を伝えるとどれから見たいか希望はあるかと聞かれます。希望を伝えて史料とその史料に対応しているその紙をもらいます。TNAでは一度に受け取れる史料は1つまでで、研究・教育目的なら全部写真はOKです。商用利用はNGです。

史料を見終わったら紙と一緒に返しに行きます。レファレンス室に入って左側に大きな机があるのでそこに史料と紙を置きます。紙には番号が書かれており、それがその日の自分に割り当てられている番号です。2つ目の史料の受け取りからは自分の番号を伝えるとスムーズです。

当日Reading Roomで新たにオーダーすることもできます。レファレンスの人に今日新しくオーダーしたいのでSeat Allocationをしてくれるようにお願いしましょう。オーダーはReading Roomの奥に並んでいるパソコンからできます。「現在オーダーしているアイテム数」の上限が3つです。そのため、新たにオーダーした3つの中から1点受け取って返したらもう1点オーダーできるようになります。私が使っていたReading Roomの最終オーダーは毎日16時でした。部屋自体は日によって17時まで開いている日や19時まで開いている日もありました。

初日と最終日に1つずつ、1階の特別な部屋で見なければならない史料がありました。1階のレファレンスの方にこの階で見る史料が1つだけあると言って確認してもらい、部屋に通してもらいました。

TNAはオーダーできる史料の数が多く、全て写真を撮れたこともあって見たかったものはかなり消化できました。次もしまた行くとしても1〜2日だけでいいかなと思っています。

宿と食事

1週間の史料調査となると宿が問題になります。私は下のホステルの女性限定部屋に泊まりました。

女性限定なのは部屋だけなので、廊下では普通に男性とも会います。部屋はこんな感じです。トイレとシャワーが部屋内にあるのも嬉しかったです。

6人一部屋
セミシングルくらいのサイズのベッド

5泊で25,000円ほどでした。ロンドンでは破格の値段です。フロントは24時間開いています。立地はBLの向かい側です。0階にはバー併設のカフェもあり、夜にはピザも出るそうですが高いので、私は毎日セントパンクラス駅のWHSmithやキングスクロス駅内のウェイトローズで朝昼晩を買っていました。朝はサンドイッチ、昼はサンドイッチとポテチ、夜はポキ丼が多かったです。

エレベーターの扉。ロンドン塔について紹介してくれるアン・ブーリン。扉が開くと首が離れるデザイン。

この宿の他のいいところは洗濯ができることです。地下に洗濯機2台と乾燥機1台があります。フロントで1ポンドで固形洗剤が2個買えます。早朝に行くと空いているので、朝6時に洗濯を回していました。

史料調査が終わったら夜ご飯と翌日の朝ごはんだけ買って、まっすぐ宿に戻っていましま。先にTNA、後でBLに行く時は17:30とかなり早い時間に宿に帰ります。TNAで18時までやって19時頃に宿に戻った時も、ロンドンのナイトライフを楽しんでいるだろう同室の人たちはまだ誰も戻ってきていませんでした。掃除されたばかりのシャワーを1番に使えたのが嬉しかったです。

史料調査期間は、そもそも調査で疲れていましたし、その日撮った写真の整理や次の日の準備などがあり、節約もしたかったので外に遊びに行ったりはしませんでした。史料調査では重いものを運んだり、500年間折りたたまれているものを開いたりと、普段の運動を疎かにしている私の場合は頭だけでなく意外と体力も持っていかれます。

値段相応かそれ以上の宿だったと思うので、次回もここを取ろうと思います。

その他研究進捗

悲しいこととしては、再査読に出していた論文が再びリジェクトされてしまいました。ですが1階目のリジェクトより落ち込んでいません。1回目は焦って出したうえ、40度の熱の中リジェクト通知が来てメンタルがどん底になりました。今回は自分では納得して出した上、イギリスにいて元気で、史料に触れられていたのでメンタルが非常にいい状態でした。

史料調査中のある日の朝リジェクト通知が来ているのを見て、その日史料調査から帰ってきてシャワーも夕食も終わったあと早速改稿の方針を考えられるくらいには冷静に受け止められていました。その後先輩にもいろいろとお話ししていただいて、ひとまずの方向性は見えてきた感じです。しかし先行研究への位置付けの仕方が少し変わるので、読み直さなければならない、もしくは新たに読まなけらばならない本や論文が出てきました。これらを読んでからまた再チャレンジを目指します!

良いこともありました。リーズ大、ヨーク大、ダラム大など近隣の大学が合同で行うSchool of History PGRセミナーにアクセプトされました。各大学の歴史学科の大学院生が隔週で自身の研究を報告していく場です。このセミナーで報告することは今回の滞在の一つの目標だったので、アクセプトされてホッとしています。

応募者数はかなり多かったようで、通常1人1枠のところ、テーマを設けて1枠で2人報告者がいる回もあります。私は幸い1人で1枠使えるので、しっかり準備していこうと思います。

英語論文は8000ワードまで来ました。残すはあと最後の章の最後のパートと結論だけです。今月中にこちらの指導教員に初稿を送ることになっているので、ラストスパート頑張ります!

追記
確定版のセミナースケジュール見たら2人の枠になってました🥲 他の日で難しかった人がこっちに移ってきたのかな?
時間を有意義に使えるよう頑張ります!!

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