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トマトスープ『天幕のジャードゥーガル』(秋田書店)4巻感想

『天幕のジャードゥーガル』4巻の感想です。前巻で大きく変化した事態の収拾がついたかに見えましたが、それが新たな火種を生んでおり、早く次巻が読みたいです!

前半はオゴタイの病とトルイの急死の種明かしでした。ボラクチンの聡明さと、彼女のモンゴルのシャーマニズム的な考え方に対する理解の深さがかみ合った策略だったのだなと思いました。

彼女のこの賭けを最後で大勝ちに持っていかなかったのがソルコクタニ。大切な人を失うという初めての経験に絶望していた彼女に対し、ファーティマはいつもの笑顔を作れませんでしたが、ファーティマの言葉でソルコクタニは奮起します。

その結果、邪魔者は遠くへ追いやりオゴタイの地盤を強固にすることを目論んでいたボラクチンの計画は未遂に終わります。その意味ではモンゴルの強化を回避できており、ファーティマとドレゲネにとっては悪くない結果だったのではないでしょうか。これを機に二人は(怪しまれつつも)ボラクチンに取り入ることもできましたし。

ボラクチンの策略をドレゲネが実行してモンゴル帝国の中枢のパワーバランスに大きな変化がおき、ソルコクタニの身の振り方が皇帝の地盤に影響する。女性たちがこの巨大な帝国を左右する動きをしていて、とてもスリリングでした。

中盤のファーティマとオゴタイのやりとりは個人的に一番面白かったです。面白いと感じたポイントは2つあります。1つ目は、二人が宇宙の在り方について話している場面です。この漫画はシャーマニズム的な考え方や文化と当時の最先端の知識が、対立しそうなものなのにうまく共存しているなと思っていたので、一番派手な形で大衝突していてビックリすると同時に、そりゃそうなるよねー!の気持ちもありました。

2つ目は、オゴタイの征服者としてのスタンスが見えたのも興味深かったです。彼はこれまで、冷静で寛容でみんなに優しく、統治や経済についてはよく考えているものの、征服についてどう考えているのかはあまりわかりませんでした。今回は、ドレゲネやファーティマが幸せになれば俺の勝ち、と発言したり、終盤ではメルキト族が草原を統一していたらモンゴルと同じことをしていただろうと言ったりしています。

自分たちがやらなくてもどこか別のところがやるのであれば、そして自分が皇帝の地位に就いた時には領土はすでに大きく拡大していたこたもあり、征服された人々が「まだモンゴルでよかった」と思えるような統治を、同時に征服せずともモンゴルに惹かれるような文化を、と考えているのかなと思いました。実際新しい人生を受け入れている人々や遠方からわざわざやってくる人々の姿もこれまで描かれていました。

とはいえこれはあくまで征服した側、力を持っていた側の視点であることに変わりはなく、ドレゲネやファーティマのように、絶対に許さない、許せないと思う人がいるのも当然だと思います。オゴタイとファーティマの衝突の後、ドレゲネとファーティマが復讐心を改めて確認し、協力を再び約束する流れが好きでした。あと、このときにファーティマが自分は賢くないと言っているのも、彼女がいろいろなことを経験して考え、成長しているのだと感じました。

この成長と覚悟が、火種を新たに作るためにオイラト族の女の子を利用することにつながると思うと切なくなりますが……ファーティマもしっかり「魔女」側へと進んでいますね……

この火種がどうなるのか、ボラクチンはどう動くのか、あの女の子は大丈夫なのか、次巻予告がめちゃめちゃ気になります。あと、息子を「ちゃん」呼びするドレゲネが意外だったので、次巻でも二人が話すシーンがあると嬉しいです(笑)。

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