叶わぬ夢と叶える夢
大好きな君へ。
今日は君にすごいプレゼントがあるんだ。
いつも君が聞いているあのアーティストさん。誰だと思う?そう、せいかーい!あの人のね、ライブに招待されたんだ。2人分の席とってくれたんだって。
なんだよ(笑)え?行きたい?行きたいべ?(笑)欲しい?
あげなーーーーーい!!!!
嘘嘘。ごめん。あげるよ。しかも最前列!!すげーだろ?最前列だから君絶対泣くだろー?えーんえーんつって(笑)ん?もちろん2枚ともやるよ。俺仕事忙しいから、俺の分まで楽しんでこいな?
うん、うん、ありがとう。君も体に気をつけて。また連絡する。チケットはマネージャーさんから送ってもらっておくから。おう、じゃあまた。
半年ぶり、ツテでもらったチケットを口実に震える手でかけた電話は2分40秒。君の声が鼓膜のすぐ側で響く余韻がまだ心地いい。
もし俺が一緒に行ったら、大好きなアーティストさんを見て泣き出す君を見て俺まで泣いちまいそうで。
手を伸ばせば届くのに、君の涙を拭えないもどかしさに心の中がぐちゃぐちゃになりそうで。
1度だけでいい。
1度だけ君と手を繋げたら。
気づくのが少し遅すぎた
ただそれだけのこと
「おい、クソガキ。行くぞ。」「っす。クソガキ忘れ物してますよー。」
スマホをポケットにしまって、相方の忘れ物を手に取る。俺は俺のやるべき事をやる。待ってる舞台がある。
「っしゃあ!!いくぜ!!」
見たくもない現実をナイフで切り裂いた
ただそれだけのこと
きなこ