#6 #e95295
何もかも上手くいかない。
険しい道であることはわかっていた。それでも少しずつ胸の奥が冷めていくのを感じる。
「ねえ」
はっと顔をあげると、黒髪の隙間から覗き込む栗色の瞳が僕を貫いた。
「来て」
君はそれだけ言うと、踵を返して行ってしまった。変な奴に絡まれた、そう思えばそれでお終いだったかもしれない。ただ僕にはそれが出来なかった。正解かどうかなんてどうでもいい。あの瞳が忘れられなかった。僕は走って君を追いかけた。
君と出会ってからは物事が全て上手くいった。今日も分刻みの予定をこなす。事務所へ向かう途中、君に呼び止められ、振り返る僕に君は言う。
「ありがとう。あなたと過ごした日々はどんなものよりも価値があった。お金では買えないくらい。」
そう言うと、君はあの時と同じように踵を返して角を曲がった。
すぐに後を追ったがもう君の姿はなく、そこにはただ、目が開けられない程の夕焼けが広がり、辺り一面を躑躅色に染めていた。
きなこ
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