#001 ありがとうを渡す
私には、男の子と女の子、2人の子どもがいます。
今回は息子がまだ抱っこ紐に収まっていたころのお話。
息子が何か月だったのか、はっきり覚えてはいない。
大学病院へ行ったのだが、もはや何の用事で行ったのかすら
覚えていない。
駅から少し距離のある病院へ行くため、私は息子と一緒に
バスに乗っていた。
ベビーカーをあまり好まなかったことや、最寄り駅の造りが不便だったころもあり、息子と出かける時は、いつも抱っこ紐だった。
大した距離ではないものの、駅までバス、駅から病院へまたバスに乗り、
私の方を向いた抱っこ紐の息子は飽きたのか、眠かったのか、泣き始めた。
バスに乗っている人は、病院へ行く人ばかり。
体調のいい人ばかりではないし、何しろ新米ママであった私は、内心穏やかではなかったと思う。
でも景色の変わらない視界しか確保されず、大して動けない息子は泣き続ける。
大した距離でなくても、声が大きくなればやはり気になる。
そんな中で、知らないおばあちゃんが息子に鈴を差し出してくれた。
息子は見たことのないものが目の前に現れ、さらにはきれいな音がするから気になり、大人しくなった。
今思えば、もっと玩具なり気が逸れるものを持っていなかったのかと自分へ突っ込みを入れたくなるところだけれど、その時は何ももっていなかったんだろう。
見せてくれた鈴は結局おばあちゃんが息子にくれた。
私は見ず知らずの私にこんなに優しくしてくれるおばあちゃんに心から感謝した。
そこで私は1つ決意した。
どこかで赤ちゃんを連れていて、泣いて困っている人がいたら、鈴をくれたおばあちゃんみたいに、何か気を紛らすものを渡そう。
私のように困った人に。
それからしばらくして息子が保育園に行くようになり、私は仕事に復帰した。
通勤で毎日電車に揺られた。
帰りの電車で、ベビーカーで泣く赤ちゃんと困っているお母さんに遭遇したので、スイッチを入れると光るリラックマのキーホルダーを差し出した。
赤ちゃんはキョトンとした。
そして泣き止んだ。
その後、赤ちゃんがキーホルダーでどれだけ我慢できたかは分からない。
でも、大変だったお母さんが少しでも救われた気持ちになってほしい。
子育てって大変だよね、でも大丈夫。
みんなあなたが心配するほど、赤ちゃんが泣いていても気にしないよ。
いつかそのお母さんも、誰か困っているお母さんに同じようにしてあげてほしい、するかどうかなんてもちろんわからないけれど。
私の友人には、いつでも困っているお母さんのために、折り紙で作ったものを持ち歩いているという。
今はコロナで人との接触を避けるよりほかない。
赤ちゃん広場もお休みだ。
子育てはきっと、あの頃以上に大変なはず。
何なら泣いている赤ちゃんと困っているお母さんの力になれるのだろう?