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目の輝きが蘇ったJリーガーの話

第1話 サッカー楽しみます

アマチュアながら40年間続けたサッカーをやめて3年が経つ。当時は週2回はジムで自主トレーニングし、毎週末は公式戦のために80km離れた千葉まで車を飛ばしてボールを追いかけていた。今は…、欧州のビッグマッチがある日は深夜も寝ずにテレビ観戦して戦術分析をしていた当時の自分からは想像できない生活をしている。ボールを蹴らずにひたすら走る。ワラーチを履いて山の中を30km駆け巡る。雪山の急登坂を黙々と登る。大自然に溶け込むようになってから、これでもかと言うほどちっぽけな自分を実感するようになって、ますますサッカーへの興味が薄れていった。

そんな私に、もう一度"この狂った世界へ挑む"という大志を思い起こさせてくれた選手がいる。出会って6年すっかり弟分になった元Jリーガーの岡本達也が、その選手を私のMTR Method Lab™️に連れてきたのが2021年10月12日。今からたった4ヶ月前の話だ。達也は私の性格を知りすぎているので安易な相談は持ち込まない。覚悟がない選手はたとえ日本代表でも相手にしないと知っているからだ。その選手はJリーガーらしい茶髪でチャラい風貌だったが、どことなく朴訥で伏目がちに視線を落とす影のある男だった。

聞くところによると、ユース時代は“プラチナ世代”と呼ばれその将来を嘱望されていたらしい。年代別では日本代表に名を連ねユースワールドカップにも出場するほどの選手だった。それから10年、目立った成績を残せず所属クラブを転々としながらなんとか生き残ってるベテラン選手。ミーティングの直前にYouTubeで最近のプレーを見たが、噂される10年前の輝きの片鱗はどこにも見られなかった。欠点はすぐに見つかったが、こうした選手は山ほどいる。輝きを取り戻せるかどうかは結局本人次第なのはこの数年間、プロアスリートをサポートしてきて嫌と言うほど思い知らされた。私たちは自分たちのメソッドに絶対的な自信があるが、選手が現代医療依存の固定観念を払拭できなければ再生はおろか現状維持も難しい。

「マスク外していいよ」
「あっ、いいんすか?」

昨年は4度の怪我に遭いほぼ離脱中でリハビリ組の生活だったらしい。達也のTwitterに辿り着き栄養の重要性に氣づけたのは、家庭を持っているベテランのもう後がないという危機感から自分自身の體と向き合うタイミングがきたからだろう。Twitterで達也にDMを送り、地方から上京してきた折に初対面の達也とともにその足で私のLabにやって来たという顛末だった。だから、私のTwitterもあまり見ていない様子でコロナの裏についてはうっすら認識している程度だった。體の再生には現代医療の矛盾と向き合う必要があるので、コロナの真相の話はパラダイムシフトの絶好の機会になる。あまり刺激的にならないように、どうしてプロアスリートは歳をおうごとに怪我が多くなるのかをコロナの2年間の社会現象とともに説明した。Twitterで私の発信をご覧になっているフォロワーさんにとっては当然のような話でも、プロフェッショナルとして體を資本にしながら生活している選手でさえ知らない事がほとんどだったりする。

毎回こんな話をするわけだが、彼はTwitterで得た情報から少しずつ食生活の改善を始めていた。妻の協力がなければかなり難しい話なのだが、小さなお子さんがいるお母さんだった場合、栄養についてすんなりと理解が進むケースが多いのも事実だ。我々のMTR Method™️は筋肉チューニングという施術やリアクティベーションというセルフケアがメインになるが、どうしても栄養状態によって改善進捗に差が出るので、選手自身が栄養改善に対してどれくらいコミットできるかがプロジェクトの鍵になる。彼の場合はこの点は問題がなかったので、地方在住であってもオンラインでその日のメニューチェックをする事で解決できると考えた。

栄養の理解が進めば次は、自社のドーピングフリーのプロテインやサプリメントを紹介し導入してもらう。一般の人は食事からでも改善できるが、プロアスリートに限って言えば補助食品による栄養摂取を強化しないと絶対に改善しないと断言できる。日々のアクティビティの負荷がヒトが耐えうるそれを遥かに超えるからなのだが、これを理解しているスポーツ科学者や医師が少なすぎるのが大問題なのだ。その最たるのが、日本サッカー協会やJリーグがドーピングを危惧しプロテインやサプリメントの摂取に及び腰になっているという事実だ。もちろんドーピングなどは論外だが、私たちが分子栄養学を取り入れているのは足りていない栄養素をしっかり補充して體を怪我に強い状態に保つことを目的にしている。私は、本来なら日本サッカー協会がこの観点で禁止薬物が含有されていない"安全なプロテインやサプリメント"を広く調査して責任を持って選手たちに勧めるのが筋だと考えている。ところが、その実態は日本代表のスポンサー企業が販売する砂糖、異性化糖、人工甘味料まみれのスポーツドリンクやエナジーゼリーがスポーツの現場に氾濫して選手の體を蝕んでいる。

THORNE®️

一方で、これはアメリカで実施された国際女子サッカー大会のスポンサー群だが、おなじみの大企業の中にあまり見慣れないロゴがある。『THORNE®️』はアメリカの医療用サプリメントメーカーで現在は日本の某大企業が資本を入れて傘下に従えている。こうした現状を垣間見るとドーピングフリーを大前提として選手の體をより健全に維持するために栄養素を補助的に摂取するのが当たり前になっているサプリメント先進国のアメリカと日本のスポーツ科学環境の違いに愕然とする。選手の體の状態を科学的かつ多角的に分析する事をせず、ただ単に"ドーピングが怖いから"と言う理由だけでプロテインやサプリメントを忌避するのはあまりに無責任と思わざるを得ない。

*JADA(日本アンチドーピング機構)は高額な認定料(検査料)を支払う事ができる大手メーカーのサプリメントだけを推奨する。だからプロアスリートが"安心して"摂取できるのは結果的に厚生労働省お墨付きの氣休め程度のサプリメントばかりになり栄養補助の役目を果たさない。サプリメント大国であるアメリカのFDA(アメリカ食品医薬品局)が認定する許容量と日本の厚生労働省が認定する許容量に差があり過ぎるのも問題。選手が混乱する原因でもある。私たちはドーピングフリーなサプリメントを栄養療法に詳しい医師のアドバイスを元に選手たちに推奨している。

私は常々、子どもたちにはこうした栄養摂取を伝えているが、プロアスリートは当然のようにこれを実施し、さらに戦略的にプロテインや微量栄養素をサプリメントで強化すべきだと考えている。なぜなのか?それは、栄養強化した選手は明らかに筋肉の質が変わるからに他ならない。当社のチューニングスペシャリスト(トップセラピスト)たちの指先は5,000時間以上の施術経験の中で、特にアスリートの筋肉の触り分けを熟知している。その選手の動きを見て、その指先で筋肉を触れば一発で栄養状態の良し悪しがわかる。これこそが熟練の技であり、レントゲンやMRIなどの造影機械技術に頼る整形外科医には到底理解できない現実なのだ。例えば怪我をした選手をMRIで撮影し、その白く映る筋肉の状態が実は筋断裂しておらず筋肉がロックしたように硬く縮こまっただけの状態の場合がかなり多いと思われる。医師の言う全治3、4週程度という診断が一番いいかげんなのはここだけの話にしておこう(笑)

こうした話を小一時間ほどしてからサッカーのプレーの話に移った。その選手にリオネル・メッシ選手の動画を見せた。「これができるか?」

Labにある大鏡の前で膝を折っての重心移動をさせてみた。「えっ」全くと言っていいほどしゃがめない。こういう選手はとても多い。股関節屈筋群、臀筋群、ハムストリング、大腿四頭筋などがガチガチに硬く縮こまっており體が思うように脱力できない。きっと10年前はできたであろう、脱力からの低重心移動ができない。そこで私が見本を見せる。52歳のただのおっさんの體が素早く低くしゃがみ込み、ステップを踏みながらダブルタッチでかわす。何度も見せる。彼はしゃがむことすらできない。プロ選手なのに…

そして、次はキックフォームの確認。世界のホームラン王の王貞治元選手の素振りの話だ。野球の名選手は素振りをする。サッカー選手が鏡の前で素振りならぬ素蹴りをするのを聞いた事がない。私は40歳のころ、現在FCバルセロナの監督を務めるチャビ・エルナンデス元選手の美しいキックフォームを参考にしながら、よく鏡の前でキックフォームを確認していた。體の軸をぶらさずにしっかり蹴り上げる。筋肉がロックしたように硬く縮こまっている多くの選手はこうした動きができないのだ。自分では蹴れているようでもボールがないところでは違和感がでる。筋拘縮は長年の蓄積なのでキックフォームも当たり前のように體の状態にアジャストさせながら崩れていくのだ。

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「まったく脚が上がりません…」
「どうだ?自分の體の現状認識はこれで十分だろ?」
「おれらのメソッドならこれがまたできるようになるんだよ(笑)」
「マジっすか!?」
そこから、筋肉チューニングの極意、自分の人體実験の話、ランニングの話、山を走る話、「足」の話、サッカー選手の前十字靭帯断裂の話、つまり『覚悟の人體セミナー』で話す内容を矢継ぎ早にこの選手にぶつける。もはや2時間前の伏目がちだった暗い瞳の男はそこにはいなかった。すでに目には少年のような輝きが戻りつつあったからだ。

心の底から楽しんでサッカーをやってるプロ選手は目が輝いている。滅多にいないが、かつてアウェイのサンチャゴベルナベウでレアル・マドリードのサポーターにスタンディングオベーションをさせた全盛期のロナウジーニョの笑みの話をした。私は本当にあの光景が好きだった。

「サッカーやってて楽しいか?」
「えっ、楽しい?そんな感覚ないっすね。もう必死で…」
「相手のサポーターから拍手喝采されるのは、ただ凄いプレーだからではなく、心の底からサッカーを楽しんで自分自身を存分に表現しているからなんだと思う。おれはプロ選手じゃないから本当のところはわからない。だが、サポートする選手には心の底からサッカーを楽しんで欲しいんだ。恩返しとかはいらない。とにかく楽しんで思いっきり輝いてくれ。」
「今のお前はサッカー小僧のような目をしてるぞ!本当に楽しそうだな(笑)」
「はい、なんかめっちゃ希望がわいてきました!!ガキのころはサッカーが楽しくてしかたなかったです。あのころの氣持ちを思い出しました。」
「じゃあ、おれはお前をサポートする事に決めた。その代わり日本代表を目指してくれ。約束だ。」

3時間に及ぶオリエンテーションが終わり、この日から地方に住むこの選手をリモートで栄養指導とランニング指導する約束をし、固い握手を交わして別れた。その日のうちにオンラインスレッドでサポートチームを紹介し、プロジェクトがスタートしたのだった。
(つづく)


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