ポートランドでお酒といえばこの人!レッド・ギレンさんと語るクラフトビール。 #KUKUMU
こんにちは。アメリカのオレゴン州・ポートランドに留学中のきむりさです。
留学中のポートランドは、「ビアバーナ(ビール天国)」というニックネームがあるほど、ビール好きにとって夢のような街。市内には、70以上のブルワリーがあります。
今回お話を聞いたのは、ポートランドで、お酒に関する日本人向けツアーやメディアを運営するレッド・ギレンさん。ポートランドにインスパイアされた飲食店を営む日本の方で、彼の存在を知らない人はいません。
レッドさんは2008年から、ポートランド、ひいてはオレゴン州全体のお酒を日本語で紹介する『オ州酒ブログ』を趣味で始めました。
ツアー運営のため2014年に独立。現在は、地域のお酒メーカーとのコラボ事業やイベント、podcastなど、日本とオレゴン州のお酒に関するさまざまな企画をされています。
今回のインタビューでは、日本とはまた違うポートランドのビール事情を、レッドさんと現地でビールを飲みながらお届けします。
ごほうび時間は、ビールから
きむりさ:まさか、レッドさんとポートランドでビールを飲める日が来るなんて思ってもなかったです.....。
レッドさん:そんな、そんな!取材してくださって、ありがとうございます!
きむりさ: 今日はポートランドで有名なクラフトビールのことから、レッドさんのお仕事のことまで聞いていきたいなと思います。
レッドさん:はい、よろしくお願いします。でもまずはせっかくなので、乾杯しましょうか!
きむりさ:はい!この時を楽しみにしていました!
レッドさん・きむりさ:乾杯〜!!!
レッドさん : あ〜。やっぱりいつ飲んでも、おいしいですね!
きむりさ:プハ〜〜、おいしいです!
レッドさん : 今日来ている『Von Ebert Brewing』は僕のおすすめの店の一つで、ビールの賞もよく取っています。観光客が多いPearl Districtに位置していますが、ここはビールがおいしいから、地域の人も飲みに来ますね。
きむりさ:それだけ多くの方々に愛されているお店なんですね。
きむりさ:まず「クラフトビール」って、何のことを指すのでしょうか? 実は、いまいち定義が分かっていなくて。
レッドさん:いい質問ですね!クラフトビールの意味は広くて、人によって定義がバラバラです。僕は、同じ職人さんが最初の素材の購入から最後の缶詰めまで、全てのプロセスに手を加えたビール。それをクラフトビールだと考えています。
きむりさ:なるほど!
レッドさん:面白いのが、ポートランドに住んでいるポートランダーたちは 「クラフトビール」と呼ばないんです。ただの「ビール」。 というのも、大手じゃなくて地域のビールを飲むのが、当たり前のような感覚なんです。
きむりさ:面白いですね。
レッドさん:ただ日本の方の中で、ポートランドのビールは「クラフトビール」のイメージだと思います。もちろん、そのイメージでオッケーですよ。
きむりさ:わかりました!レッドさんがこのお店に来たら、必ず頼むビールはありますか?
レッドさん : いつものパターンとしては、今僕が飲んでいるドイツスタイルの『Von Ebert's Pils』で始めますね。フルーティーで飲みやすいけど、一般的なドイツビールよりも味が濃くて、苦いのが特徴です。
きむりさ:その味には、何か理由があるんですか?
レッドさん : はい。ポートランドがあるオレゴン州は、ビールに苦味と香りをつけてくれる植物であるホップの産地で、ポートランドに住んでいる人たちの多くが、ホップの味に慣れています。だからお店も、あえてより苦みが出るようなホップを使用しているんです。
きむりさ:地域の方々の味覚に、合わせてるんですね!
レッドさん : そして2杯目は、今りささんが飲んでいるアメリカンスタイルIPAの『Volatile Substance IPA』を飲みます。透明感がある色で、苦みをよりしっかり感じるビールです。
きむりさ:これ「私が知ってるクラフトビールの味!」って感じがします。まず、香りが華やかで良いですね。おいしいです。
レッドさん : よかったです!この2種類が、Von Ebertで僕が自分へのごほうびとして飲むビールですね。
きむりさ:ごほうびですか。このお店は、どんな時に飲みに来るんですか?
レッドさん : 飲食ツアーが終わった後、参加者のみなさんに「よかったら『Von Ebert Brewing』で、一息つきませんか?」と言って、飲みに来ることが多いですね。この店に来て、ビールのイメージが変わる方もいるんですよ。
きむりさ:それは、すごいですね!
レッドさん : 特に夏のポートランドは暑くなるでしょ。その時に、ここで飲むビールは最高ですね。
きむりさ:レッドさんはお酒に関するお仕事をしていますが、お仕事以外でお酒を飲む時もあるんですか?
レッドさん : もちろん! プライベートでお酒を飲むのは、僕にとって「今日の用事が全て終わった、これから何もない!」という時に、その境目に線を引くイベントのようなものなんです。
きむりさ:いいですね。
レッドさん : 僕はどんな種類のお酒も好きですが、はじめに飲むのはやっぱりビール。ビールは軽くて、ハッピーな気持ちになりますね。
街全体でつくるポートランドのビール
きむりさ:ポートランドで飲むビールは、とにかく香りが豊かで。日本で飲むビールとは、また全く違うというか......。
レッドさん: 日本だと「とりあえず、生!」とよく言いますよね。その言葉にも表れているように、日本にいる多くの方のビールのイメージは、喉越しを楽しむものだと思うんです。
きむりさ:たしかに。「暑い夏、キンキンに冷えたグラスでまず流し込む!」みたいなイメージはあります(笑)。
レッドさん:それに対してポートランドの人たちは、ビールの香りや味を楽しむ傾向があります。
きむりさ:なるほど。それから、ビールの選び方にも違いがありますよね。日本だと「アサヒのビールが好き!」など、大手のメーカーでビールを選ぶ人が多い気がしますが、ポートランドはビールをつくる醸造所でビールを選ぶ人が多いと感じています。
レッドさん:大体は、そうですね。評判は大手のビールメーカーではなく、より小さい単位で、街の醸造所(ブルワリー)ごとにファンがいます。いろんな賞を受賞した醸造所とか、ここの醸造家は面白いとか!
レッドさん: ポートランドの醸造家は、街の小さなスターみたいな感じなんですよ。ちょっとした有名人なんだけど、人との距離感も近くて、すごくフリーダム!
きむりさ:素敵ですね!
レッドさん:あと多くの醸造家がSNSをやっているので、どんな人がどこでつくっていて…… という、つくり手のストーリーが見えやすい。ポートランダーは、つくる人の存在をすごく大事にします。
きむりさ:つくる人を知っていると、安心感がありますね。
レッドさん:やっぱり、そういう人たちがつくるものを応援したくなるし、ビールにも、人間性が感じられるようになるんです。
きむりさ:ポートランドは、「街全体でクラフトビールを盛り上げていこう!」みたいな雰囲気もありますよね。
レッドさん:理由の一つに「ビールの素材が手に入りやすいから」とっていうのも、もちろんあると思います。だけど、もっと面白いのが、「共存共栄」の考え方が根強くあるからなんですよね。
きむりさ:共存共栄……?
レッドさん: ここでビールをつくる職人さんたちは、お互いにめちゃくちゃ情報交換するんですよ。
きむりさ: 不思議ですね。企業秘密はないんですか?
レッドさん:ないですね。なんでも教えてくれます(笑)。隣のブルワリーは、ライバルではなく、協力者。これがポートランド全体としては、すごく大事で。情報交換をすると、結果として、街に「まずいビール」ができないんですよ。
きむりさ:なるほど。だから、ポートランドのビールは、おいしいんですね!
自分のためが、仕事になった
きむりさ:今度は、レッドさん自身の話を伺いたいです。レッドさんは、なぜポートランドのお酒が好きになったんですか?
レッドさん:元々、仕事の関係でサンフランシスコに住んでいました。15年前、仕事がテレワークになったのをきっかけに「住みたいところ住もう!」と思ってポートランドに引っ越してきました。ただ最初は、友達がいなかったんですよ。そこで、こっちで新しい人と会うたびに「飲みにいこう!」と約束して、ブルワリーに行っていました。
きむりさ:ポートランドのお酒を好きになったのは、最初は「友達づくりのため」だったんですね。
レッドさん:そうです。ブルワリーに行けば行くほど、ポートランドのブルワリーのオープンな雰囲気や飲むカルチャーが好きになりました。それで「もっとお酒のことを勉強したい!」と思うようになったんです。
きむりさ:そこから、なぜ日本語で発信されるようになったんですか?
レッドさん:実は、8年ほど日本で仕事をしていた経験があるんですよ。アメリカに戻ってきても、せっかく覚えた日本語を忘れたくなかった。それで、移住してきたポートランドのお酒、さらにオレゴン州全体のお酒について日本語で紹介する「オ州酒ブログ」を始めることを思いついたんです。
きむりさ:一石二鳥ですね!
レッドさん:そうなんです。当時は、自分の勉強のためにブログを始めたので、まさか読者がいるとは思っていませんでした。ただ、2年くらい続けていたある時、日本の方から「あなた、オ州酒ブログを運営している人ですよね?」って、街で突然、声をかけられたんです!
きむりさ:おお!
レッドさん:めちゃくちゃびっくりしました(笑)。だけど、これがよりお酒のことや日本語を勉強するモチベーションになったんですよね。最終的にブログを始めて6年後に、会社を辞めて、日本人の方向けの飲食ツアーを始めました。
きむりさ:自分のための発信が、気づいたら仕事につながっていったんですね。
熱量は、ポートランド外の魅力へ
きむりさ:レッドさんのpodcastを聞いていていつも思うのが、レッドさんが本当に楽しそうなんですよね。「仕事でやってます」という感じがないというか。
レッドさん:その理由は、簡単ですよ。元々、日本が好き。ポートランドが好き。お酒が好き。だから、仕事の感じがしないんですよ!僕も楽しいんです。
きむりさ:レッドさんの仕事への情熱は、シンプルに「好き」という気持ちから来ているんですね。
レッドさん:はい。これらが仕事じゃなくても、続けてると思いますね。
きむりさ:15年ほど日本人向けのツアーの開催や発信などを続けてきた今、どういう気持ちですか?
レッドさん:「podcast聞いてるよー!」など1人でも連絡があると、今までやってきてよかったなあと思いますね。
きむりさ:私もこれからもpodcast、聞き続けます!
レッドさん:ありがとうございます! あとこの仕事を続けていて感じるのが、日本の方が「ポートランドに来たい!」って言ってくれるのと同じように、ポートランドの人たちも、日本のセンスやカルチャーなどにリスペクトを持っていると思います。
きむりさ:それは、うれしいことですね。
レッドさん:僕が感動したのは、東日本大震災が起こった時期に、ダウンタウンのPioneer Courthouse Squareに何百人も集まって、ろうそくに火をつけて祈るというイベントです。
きむりさ:そのくらい、日本とポートランドの関係は深いんですね。
レッドさん:はい。自分の仕事が、日本とポートランドという街のつながりを維持するための一部になれていることにやりがいを感じてます。
きむりさ:ポートランドと日本の交流が、レッドさんのような方々に支えられていることを知れて嬉しいです。レッドさんは、これからやってみたいことはありますか?
レッドさん:まずコロナ渦の前のように、より多くの日本の方が気軽にポートランドに遊びに来てくれたらいいなと思います。これからは、ポートランドの外もどんどん紹介したいです!
きむりさ:ポートランドの外ですか?
レッドさん:ポートランドという街は、オレゴン州のほんの一部なんです。だけど、日本語のガイドブックだと、ポートランド以外のオレゴン州のことは少ししか載っていないんですよ。知られてないけれど、オレゴン州は自然が豊かで美しい所が、もっともっとたくさんあります。
きむりさ:魅力が尽きない場所ですね。
レッドさん:そうそう。だから、より多くの方にオレゴン州全体の素晴らしい飲食のことを紹介していきたいです。もちろん、おいしいお酒もね!
編集後記
ポートランドは、人と人が自然とつながっていく不思議な街。留学前から『オTALK』を聞いていた私は、「いつかレッドさんに会えたらいいなぁ」と思っていました。
偶然の出会いは、留学して2ヶ月目。大学の先生方の調査に参加させていただいた時のこと。「アテンドの方の声、どこかで聞き覚えのあるな...... 」と思っていたら、なんとレッドさん本人でした! 画面越しの世界にいる人が急に目の前に現れて、とてもアタフタしてしまったのを覚えています(笑)そんなご縁から、こうして今回、取材をさせていただくことができました!
大好きなクラフトビール。
そして、レッドさんにお酒のことや仕事の時間を聞かせてもらう時間。
これらは、私の留学の中で最高のごほうびとなりました。
レッドさん、今回はお時間を取っていただき、ありがとうございました!
これからもオレゴン産のおいしいお酒が、誰かのごほうびになり続けますように。
※アメリカでは、飲酒は21歳からです。
文章:木村 りさ
写真:武田 亜希子
編集:栗田 真希