子供が「早く大人になりたい」って言ってる方が健全だ
人生は基本的にたのしい、という事実を伝えることができたら、親としては成功したと見ていいのではないかと思っている。
子供には希望を与えなければならない。
現代日本には、あまりにも青春賛美のものいいが多すぎる。
本来、子供は子供であることにうんざりし、早く大人になりたいと思ってしかるべきだ。
だというのに、大人は子供に「大人は大変だ」「子供時代を大事にしろ」「もう一度子供に戻りたい」と繰り返す。
だから子供が、いつまで経っても子供でいたがるのだ。
大人の方が、たのしい。
時間の使い方は自分で決められるようになるし、お金も自由が利く。
行動範囲も広くなるし、影響力も増す。
大人の方が、圧倒的に、たのしいのだ。
現にぼくは、人生のなかでいまがいちばん呼吸がしやすいし、日々がたのしい。肥大した自意識や焦燥感や義務感と縁が切れ、生活にリズムができた。じぶんのできないことが分かり、果てしない地平線に果てはできたけれども、いっぽうで、じぶんにできることも発見できた。何人かの他人に認めてもらうこともでき、居場所をつくることができた。
このまま生きつづけていくことができる。
そういう確信のもとに営みをつづけていけるのは、気が楽だ。
子どもの頃に感じていた寄るべなさは、もはや縁遠いものとなった。生活に伴うあれやこれや、趣味に属するあれやこれやを、ようやく、混じり気なしに愉しむことができるようになった。
大人になってから、ぼくは、人生がたのしくなったのだ。
この事実を、きちんと子どもたちに伝えてやらねばならない。
そのためには、子供心を失わぬ振る舞いが必要だ。
大人げなく、大人であることを堪能する。子どもの頃にできなかったことのすべてを、ぞんぶんに、たのしむ。そのさまを見せてやる。
すると、子供が必然的に大人に憧れる。
それが健全なかたちなのだ。
いつか息子が、「早く大人になりてえなー」とつぶやいてくれたなら、ぼくの勝ちである。