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禍いの春
桜は咲いたけれど、今年はそこに、雪が積もった。
つばめは渡ってきたけれど、今年はそこに、雪が襲った。
春は来たけれど、今年はそこに、わざわいが従った。
その毒は、舌を鈍らせ、鼻を鈍らせ、肺を曇らせ。
重くなると息ができなくなり、悪くするとあちこちの臓器を痛めつけ、死んでしまうかもしれないのだという。
あっけないくらい急に。
その毒は、さわるとうつり、咳やくしゃみのしぶきでうつり、閉めきった場所にただよう空気でうつり。
手や口や鼻や目からうつるのだという。
だから人と人とが近づくことを、人と人との触れあいを、いまは避けなくてはならない。
目に見えない毒が、匂いのない毒が。
世界中に広まって、世界中で広まって。
多くの人を怖がらせ苦しめ、親しい人から引き離し。
そして体から命を引きはがしているのだという。
親しい人への「さよなら」もさせてもらえないままに。
愛しあうことをとどまらせ、祈ることしかできなくするその
核酸とタンパク質からなるその
短くて愛らしい名前で呼ばれるその
呪いが
いま、あらゆる人に危険を突き付けている。
けれど知恵を絞る人がいて。
知識を分けあう人がいて。
心を砕く人がいて。
その身を捧げる人がいて。
人は自分を大事にしながらも、助けあうことができる。
傷つけあうことを控えて、他人を思いやることができる。
たとえ触れることができなくても
私たちには言葉がある。
紙に記し、人に託し
あるいは金属の細いケーブル越しに
あるいは電波を飛ばして
時と場所の隔たりを超えて
つながりあう力がある。
だから一歩一歩
確かめながら前に進もう。
すこしでもからだを清め
すこしでもこころを落ち着けて
すこしでもすこやかに暮らそう。
ひとりひとりが灯す希望を見守ろう。
きれいになった空に
輝く星を仰ぐように。
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