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もし世界に孤独なヒトが二人以上いるのなら、それは孤独ではないと思う 後編

前回までのかんたんなあらすじ

主人公は相場に敗れて大損、途方にくれてあたりをさまよっていると…

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☟その続き(;´∀`)☟

ふと人気のない近所の公園に行きつくと、複数の小学生が逃げるようにさっていった。

公園ではさっきの、辞書のような分厚い本をもっていた子どもが、泣きながら地面に横たわっていた。まるで赤ちゃんを守るよう、力いっぱいその本をだきしめながら。

「おい、だいじょうぶか?」

声をかけると、少年は気丈にだいじょうぶ、と涙声でいいながら、あわててその本をめくりだした。そしてぱらぱらページをめくると、ほっと息をついた。

さっきの少年たちはいわゆるいじめっこのような存在で、普段から彼の本をやぶいたり、いたずらをしているらしい。彼にとっては他の本は破られても、この本だけは守らなければいけない、大事なもののようだ。

「そんなに大事な本なのか…」

中をすこし見せてもらうと、どのページの余白にもメモ書きのようなものがびっしり書き込んであった。

「ボク、小説家になりたいんだ。だから…」

「すごいな。これ全部キミが書いたのか」

「ほんとに?誰にもほめられたことなんてない…陰でこそこそやってて気持ち悪いって…」

「いや、大人でもこんなにはできない。立派な才能だよ」

だんだん本を読み進めていくと、ちょうどぺージの上に、ぽたりと雫が落ちた。雨が降ったわけではない。わたしの涙が、こらえきれずにあふれ、ちょうどそこに落ちたのだった。

「ごめん、よごしちゃったね」

わたしは袖口でごしごしと、本を拭いた。

「おじさん、泣いてるの?」

「キミはえらいよ。こんなに大事なものを、立派に守ったんだから。ボクは守れなかった…すべてを失った」

何年かのサラリーマン生活で必死でためたお金の大半を失った。やりたくない仕事を歯を食いしばって頑張り、節約を続け、いつか独立しようと思って血を吐く思いでためたお金を、すべて失ったんだ。

わたしだっていままで、人生のなかでいくつか大事なものも得て、大事なものを守ってきた。でも今回は無理だったんだ。マモレナカッタ…。

きっとこれから先も、こんな人生が続くのだろう。何かを必死で得て、喜び、襲われ、守ろうとし、破れ、力尽きて運命に奪われる。

この子はそんな悲劇をまだ知らない。

「でももし…今回は守れたかもしれないけど、またあいつらがこれをねらってきて、いつかは失うかもしれない。そうなったら、キミはどうする?」

わたしは彼の純粋な思いをけなしたかったわけではない。素直にただ、そう思っただけだ。知りたかっただけなんだ。彼は大人になっても、純粋な思いを貫けるのか、それともいつかわたしのように力尽きるときがくるのか。それを知るすべはきっとないのだろうが…。

少年の涙はすでに止まっていた。顔つきはどこか、さっきまでとは別人のように、大人びて、りりしいものになっていた。秋の斜陽が少年のほほを赤黒く染めていった。

「それでも…つらいけど、ボクはまた書くよ。ずっとそうしてきたから」

すべてを失い、ぽっかりと開いた胸の中に、すっと何かが、埋めるように入り込んでいく。

わたしは孤独だけれど、孤独ではなかった。

世界のどこかに、自分と同じように、孤独に頑張っている人がいる。それがわかるだけで、孤独ではなくなる。ひどい矛盾だけど、わたしはなんとなくそう思った。

わたしはすこし少年に自分のことを離した。少年は興味深そうに話しを聞いてくれた。

いつか少年がわたしのことを作品にしてくれるかもしれない。わたしがそれを見られるか、それまで生きていられるかもわからないが…それに期待して、生きることに、もうすこし頑張ってみようかと思った。

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