「お好みは?」と聞かないこと
相手からの返答はコーヒーなら「酸っぱくないの」または「苦いの」。日本酒なら「辛口」か。うっかりこの問答をやっちゃうと反省会行き。
お好みがあるということを前提にしちゃいけないと思ってる。それは、わたしが好きなコーヒーや日本酒に対して、他の人も同じように好き嫌いを表明できるわけじゃない。と書くとだいぶ上から目線で悪いが意味合いは違う。それらは「たかが嗜好品」なわけで、わたしがそれらを「必需品」として選ぶときのように当然好みがあるなんて傲慢な憶測は提供者としてしんどい、ということ。
先ほどの返答は、え、わかんないけど、とりあえずそれっぽいの言っておくか…からの「酸っぱくないの」「苦いの」「辛口」であることがかなり多い。経験則として。わたしだってコスメ売り場行って「マット目の」「ツヤ感のある」とかそれっぽいの言うもん。
もし本当にそれらが「お好み」だったとしても、相手の表現と自分が提供してるものに乖離があることもよくあるので、なんにせよもっと会話したほうがいい。昔はな、スペシャルティコーヒーに苦いとかないんで?みたいにツッパってたけど、思い出すと動機が速くなる、しんどすぎる。
では、謙虚な気持ちで説明したらいいのか。例えばコーヒー。「エチオピアにはジャスミンのようなフローラルな風味があって、グアテマラにはカカオニブやローストナッツのような甘みがあって」とかとかね。それで「うーん、わからないので」「味音痴なので」と困った顔をさせてしまったらもう朝まで反省会行き。「で、ですよね〜」ニコニコ、でひとまず立て直すけども。
正しい情報は相手がアクセスできるようにしてあればよくて、詳しい説明書きで補足されるとか、あとから「香りがいいですね」って言われたら「そうですよね、エチオピアのコーヒーは…」でいいと思ってる。
もちろん相手の嗜好品への意欲(目線や姿勢でわかることがある)や経験、あとは相手との関係性次第。まずは目の前にある商品の全体像を見せて、爽やか、さっぱり、香りがいい、コクがある、飲みやすい、みたいな言葉で分類して、反応を見ていくやり方をわたしは好む。
わからなかったな、小難しいなって思われないように、嗜好品の提供者こそ謙虚に伝えることを頑張らないといけないと思う。こっちの言葉わかんないっすか、そうっすよね、なんてやってたら裾野広がらない。ファンをたくさん作って盛り上げるというのもあるけど、親しみやすい雰囲気が単純にわたしは好き。相手が気持ちよく過ごせること、それは商品を選ぶときからそう、それが嗜好品を提供する者の役割だと思う。
正しさを捨てるのではなく、正しさの抽象度を上げ下げできること、伝わりそうなポイントを探ること、投げかけて反応をみて、軌道修正すること。「あわよくば、あなたのアンテナにちょっとでもひっかかたらいいなあ」という気持ち。なんだ、この嗜好品、意外ととっつきやすいじゃん、からの、それなしでいられない体にすること。過激な思想だ。ま、簡単じゃないけど、改めてやっていこって思って書いてみた。
追記
その嗜好品を初めて味わう場合もあるので、よくわからないかも、難しいかもという気持ちに寄り添いつつ、これからの付き合い方のヒントやガイドになるような、そんなコミュニケーションをしていきたいなと思ってる。