位相空間とは結局なんだったのか?
位相空間ってやっぱり難しい
突然ですがやっぱり位相空間論って難しいですよね。線形代数や解析学はイプシロンデルタ論法等ちょこっと躓きポイントがあるものの概念的なものではないのでちゃんと勉強していればどうにかなりますが位相空間論はそうもいかない。数学科に行かない限り位相空間論をちゃんとわかっていないせいで先に進めないということはまず起こりらないとは思いますが、機械学習でいは関数解析やる時に出てきますし、多様体論の頭では必ずと言っていいほど出現する。わかっていなくてもいいけれどやっぱりわかっておきたい分野といったところでしょうか。
特に難しいのが位相空間の導入。開集合の性質を一般化し位相空間を導入しますが、その理由がよくわからない。そもそも中学のころちょこっと出てきた開集合がなぜ一般化されるほど重要なのかがわからない。そんなかんなでかなり苦しめられたのを今でも覚えています。
理解が進んだのは測度論を勉強したからでしょうか、今では直観的な理解が前よりはできるようになってきたと思っています。そこでここでは私なりの理解をここでまとめようと思います。なお、対象は「位相空間論を勉強し位相空間の定義などはわかったけれど直観的に落とし込めない方」です。かなり個人的な見解を描いているので意見コメントあれば自由によろしくお願いします。
そもそも考えたいものは何か
位相空間とは何か、という問いに対して「近さの一般化をした空間」などの距離概念の一般化のような表現をよく目にしますが、私はあまりしっくり来ておらず、どちらかというと「収束性を議論できる空間の一般化」というようなイメージを持っています。収束とは高校で極限(lim)を使って議論される話題で、連続性や微分の定義などにも使われています。この極限は連続や微分とも関わってくることからわかるように、数学においてとても重要な概念なわけですが、基本的に距離が定義された空間(距離空間)で扱われます(イプシロンデルタ論法で絶対値記号が出てくるのがその証拠です)。このような距離空間上でしか議論できなかった収束性の議論をより一般化した空間、それが位相空間だと思っています(収束性を議論するためのベースとなる空間、といったイメージでしょうか)。
さて、位相空間をそのように考えたうえで、収束性を議論するために空間が持っているべき性質は何でしょうか。収束性を議論するうえで出てくる極限とは、とことん小さくして見ていったとき、という意味でした。この"とことん小さくする"、というのはある意味、「虫眼鏡で拡大して見えてきたところから一点を選んで、さらにそこを拡大して一点を選んで、さらにそこを拡大して一点を選んで…」という作業に他なりません。実は位相空間もそのように、拡大して一点を選んでさらに拡大する、ということが可能な空間に他ならないのです。そしてそのような拡大に拡大を重ねることができる特別な性質を持っているのが、位相空間論で中心的な役割を果たす開集合なのです。
開集合の特別な性質
さて、いよいよ開集合の話に移っていきます。
先ほど言ったように開集合は拡大に拡大を重ねることができる特別な性質を持った集合です。それを具体例を挙げながら以下で見ていきたいと思います。
まず0~1の間で定義される開集合(0,1)を考えます。この開集合を1:3に分ける点1/4を取り出します。さて、この1/4を含み、(0,1)の中に包含される開集合を探してみましょう。例えば(0,1/2)なんかが考えられますね。1/4∈(1,1/2)ですね。さらにこの(0,1/2)を1:3にわける点1/8を取り出し、これを含み、(1,1/2)に包含される開集合を考えます。そうすると(1,1/4)が出てきます。1/8∈(1,1/4)ですね、さらに繰り返すと1/16∈(1,1/8), 1/32∈(1,16),…1/2^n∈(1,2^(n-1))と続きます。これは開集合から任意に点を取り出しても、それを包含するより小さい開集合を持ってくることができることを表していますが、これが先ほど言った拡大に拡大を重ねることができるという性質です。注目すべきは取り出した点がどんどん0(端点)に近づいて行っているにもかかわらずそれができる、という点です。これが開集合ではなく閉集合[0,1]だった場合、取り出す点が端点、例えば0だった場合、0を含み[0,1]に包含される集合を取ってくることはできません。
このように拡大に拡大を重ねることができる性質を持っている、つまり極限を考えるベースを備えている、だからこそ開集合は位相空間の定義として中心的な役割を果たしているのです。
位相空間の定義
開集合が収束性を議論するうえで欠かせない性質を持っていることが分かれば、あとはこの開集合が持っている性質を一般化すれば位相空間を定義することができます。その性質とは、位相空間の定義そのものですが、(i)全集合と空集合が含まれていること、(ii)有限個の集合の補演算で閉じていること、(iii)可算個の合併で閉じていること、の3つです。
開集合の性質を一般化しているだけなのでこの定義から生じた位相空間も拡大に拡大を重ねるような議論ができるわけです。
まとめ
ということで今回は位相空間のお気持ちを軽くまとめてみました。大きなメッセージとしては位相空間は収束性を議論できるような土台を提供する空間であること。そして収束性を議論するうえで欠かせない、拡大に拡大を重ねるという性質を持っているのが開集合であること。だからこそ位相空間の定義には開集合の持っている性質が使われているということです。
位相空間を勉強していく中でモヤモヤした際にはぜひここに立ち戻ってもらえれば幸いです。