【黒松内町】北海道新幹線トンネル残土から基準値を超えたヒ素が検出されたことについて
初めてnoteに記事を書きます。
自分の中の情報を整理するために。そして一人でも多くの方に関心を持ってもらえればと思って書くことにしました。
【まずは自己紹介】
私は北海道の黒松内町で子どもの自然体験活動を行うNPOに勤めています。元々の出身は釧路ですが、この周辺の自然と人に惚れ込み、10年程前から黒松内町に関わり続けています。
【黒松内町について】
黒松内町は、札幌市と函館市のほぼ中間に位置しています。国の天然記念物「自生北限の歌才ブナ林」を軸とした交流を活かした町作りを行ってきました。自然が豊かで本当にいいところです。
【ついでに寿都町のことも】
今年の10月、隣町の寿都町が高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の受入の為の文献調査応募を表明し、周りは一気に賑やかになりました。
■寿都のことに関しては、知り合いの方がまとめてくださった記事(月1原発映画祭ニュースレター第2号)がとてもわかりやすいので、そちらをどうぞ。私も個人的にネット署名を始めたり、仲間と新しい団体を立ち上げたりしました。
そんな核のゴミのことで揺れていた間に別の問題が浮上していました。それが、これから述べる新幹線のトンネル残土の問題です。
【何が起きているのか】
2020年8月中旬、黒松内〜蘭越間の新幹線トンネルを掘った土(残土)から基準値を超えるヒ素が出てきました。
元々、北海道新幹線はトンネルだらけ。また火山地帯を多く通ることから有害重金属(ヒ素・水銀・鉛・セレン・カドミウム・六価クロムなど)が含まれる有害掘削土が出てくることが予想されていたようです。(有害重金属については後ほど)
黒松内での事前のボーリング調査の結果から、鉛などが出てくることは予想されていたようですが、いざ掘ってみると基準値の4倍のヒ素が出てきました。ボーリング調査については「流域の自然を考えるネットワーク」さんの記事が詳しいです。
有害掘削土は決められていた残土置き場に運ばれることなく、仮置き場に置かれ調査段階にありましたが、機構側の調査が終了し、有害掘削土も予定していた受入地に運び込まれています。(2020年11月現在)
黒松内~蘭越間トンネルの本坑(主要トンネル部分)は5km。斜坑(作業トンネル的なもの)1kmの区間のうち、10mの区間からヒ素が出たようです。
しかも、たった10m掘り進めただけでダンプ100台分もあったとのこと。これから本格的に始まるトンネル工事ではさらに大量の重金属(ヒ素以外も)が出る事が予想されています。
【残土の置き場(受入地)について】
黒松内町の豊幌という地区です。2か所設けられています。
黒松内町を流れる朱太川に近い山の谷間の町有地です。近隣の住民の方々は地下水を飲水として利用している方も多く不安の声が上がっています。川に近い急斜面に土砂を積んでいくため、災害時に崩れる心配はないのか?地下水や雨天時の増水によって川に有害物質が流れ込まないのかが心配されています。(実際に受入地を見てきたレポートを下に載せています)
【朱太川について】
黒松内町には朱太川という川が流れています。残土置き場はこの川の上流と非常に近いです。朱太川の本流にはダムのような大きな人工物がないため、生き物が川と海を自由に行ったり来たり出来ます。そのため生物が豊富で多様です。また、アユの保全にも力を入れており、アユの食味を競う全国大会でグランプリを獲得し、毎年多くの釣り客が訪れます。
仕事柄、毎年夏には沢山の子ども達を川遊びに連れていきます。(例年100人近くになります)子ども達に貴重な体験を提供してくれる非常に思い入れのある大切な川なのです。
【場所選定の経緯】
新幹線のトンネル工事を進めている主体は機構(独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)です。機構と町は協定を結んでいます。町は機構側から頼まれて、長い期間土地を探していたらしいです。一般公募をしたものの目ぼしい応募もなかったため、必要に迫られた町は、町有地である今の場所を残土置場として提供することにしたようです。以下、機構からの資料です。
【協定書の内容について】
土砂の受入地はどこにするのか、受入の期間はどれくらいなのか、水質調査はどれくらいの頻度で行うのか、不測の事態が発生した時にはどのような措置を取るのかなどについて、町と機構が取り交わした約束事が述べられています。
トンネル工事後の管理について原則2年間は機構側、町ともに水質調査を行うことが協定書に書かれています。必要があれば延長も可能とのこと(必要ないと判断されれば延長はできないということでもあります)。
置き場である土地は受入の間のみ機構側に貸すことになっており、最終的には埋立した土地は、有害物質を含んだ土砂とともに町に返ってくることになります。
【残土の保管方法について】
黒松内では土砂をそのまま重ねる工法で行うことが決まっています。下記の機構からの資料のイラスト内の①です。
本州でのトンネル工事ではシートでカバーを行っており、町議員さん達が視察した時に見たのはその工法だったそうです。ところが、北海道新幹線工事が始まってみたら、工法が一変。非常に驚かれたそうです。
機構の主張としては、過去のトンネル工事から時が経ち、シミュレーション技術が上がった為、シートでカバーをするほどの大袈裟な工事は必要ない。それは昔の工法だとのこと。 第三者委員会(下記で触れます)が検討した結果、この工法で問題ないという結論に達したとのことです。(但し、その根拠となるデータは一般公開されていません)
上記のような理由は建前で、コストがかかるためシートを使わないのでは?という見方もあります。
今まで基準値を超える重金属が含まれる残土処理には遮水シートを使用する工法が一般的だったようです。今までの全国の施工例一覧。いくつかの論文でも述べられています。
では、なぜ黒松内では使用しないのか。本当にコスト面だけでなく安全面を考慮しての結論なのか、疑問が残ります。
【第三者委員会とは】
機構の説明によりますと「学識経験者等の専門知識を有する第三者による委員会において、トンネル発生土の分析・評価、対策土の受入候補地に対する対策工等について審議・検討します」とあります。
しかしながら、機構側に有利な調査結果しか示さないのではないかという懸念はぬぐえませんし、土木関係の技術系の専門家、大学教授がメンバーの大半を占め、川の生態系や生物、重金属の毒性に詳しい専門家がほとんど含まれていないことも指摘されています。メンバーのリストはこちら。
「朱太川の清流を守る会」
このような状況を受けて、今の工事の在り方で大丈夫なのかという不安の声が上がりました。今年10月には「朱太川の清流を守る会」(以下、清流を守る会)という団体が立ち上がり、黒松内町議会に対しての請願署名が行われました。その結果、町内で344筆(黒松内町の有権者の16%)の署名が集まり、11月19日議会に提出されました。
【有害重金属とは】
有害重金属は、食べ物や水の中に含まれる水銀・鉛・カドミウム・アルミニウム・ヒ素・ニッケルなどの、身体にダメージを与える重金属を指すそうです。
黒松内町のトンネル工事では基準値の約4倍のヒ素が検出されました。ヒ素は摂取すると生体影響が大きく、健康被害をもたらすことが多いことから、嫌われ元素の代表格と言えると下記の記事で紹介されています。
黒松内町でヒ素についての勉強会を実施予定でしたが、コロナで延期となりました。ヒ素については、既に同じ先生による勉強会を実施された手稲の方がNOTEに記事を記載されています。
朝里川の動画も参考になります。
機構側の主張としてはヒ素は自然のそこら中に存在している。多くの食品にも含まれていると説明しています。また、 土に吸着されて毒性が弱くなっていくとも主張しています。
一方、ヒ素は空気に触れることで毒物に変わる可能性が指摘されてもいます。また、海外の論文では濃度が低いヒ素であろうと、長い期間生物が晒されると影響が出ることが報告されています。
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ここまで記事を書いていると、ありがたいことに現地を視察しないかというお誘いを知り合いの方からいただきましたので、ここからは実際の現場の写真を載せていきたいと思います。
【実際に見て来ました(11/17)】
10名の方と一緒に実際の受入地を視察見学させていただけることになりました。
① 受入地Bの視察
動画を見ていただくとわかりやすいと思います。
視察場所ではまず鉄道運輸機構の鉄道建設所長さんから黒松内町でのトンネル工事の概要について説明をいただき、歩いて5分ほどの受入地へ向かいました。
突然目の前に現れる不自然な壁。この壁こそがトンネルからの残土を積み上げた盛土です。傾斜は約40度。機構の方々はこれくらいの斜度はよく見られると言っていましたが、実際目の当たりにするとかなりの急斜面に感じられました。
今までは無対策土(基準値を超える重金属が含まれない土砂)の受入のみを行っていましたが、昨日(11/16)から対策土(基準値を超える重金属を含む土、黒松内の場合はヒ素。有害掘削土と同様)の運搬も始まっていました。無対策土と対策土は分けることなく、同じ場所に積み上げられていくことになります。土砂に含まれる基準値を超えるヒ素については、現地盤(元々の地盤)に吸着させることで濃度を薄くするとのことでした。本州の工事のように、遮水シートを被せるなどの対策も実施しないとのことです。
盛土の手前(道路側)には沈砂池が設けられていました。沈砂池(ちんさち)とは泥や土砂を流し込まないように作られた人工のため池のようです。残土の運び込みが終わった後、沈砂池は埋め立てるとのことでした。
②沈砂池から流れ出る沢
沈砂池からは小川が流れ出ており、道路の脇に流れ出ていました。今のところ、この場所の水質調査ではヒ素は検出されていないようです。
しかしながら、道路を挟んですぐ向かいには朱太川の本流が流れています。朱太川の本流ではヒ素が含まれているかの水質調査は行われていません。
②受入地Aの視察
ここの受入地を視察し、一番驚いたのは積み上げる土砂の高さ、量でした。
白い点線で示した部分まで土砂で埋め立てるようです。ものすごい量です。もう一つの受入地と合わせて、全部で計59万㎡の土砂が運び込まれる予定です。上から見下ろすと、谷間に土砂を運び込むということが非常にわかりやすいかたちで見ることができました。眼下には道路と朱太川が見えます。
視察を行っている最中、ちょうど対策土(有害掘削土)を積んだトラックが土砂の搬入を行っていました。トラックの積み荷部分には緑色のシートが被せられています。後から聞いた話によると、このシートは以前まではつけていなかったとのことでした。対策土を積んでいるトラックからの粉塵による汚染の危惧について機構に指摘したところ、汚染対策としてシートを被せるようになったとのことです。
報告書の簡易レポートも作ってみました。
【現地を見た感想、気になった点】
実際に受入地を視察させてもらったことで、町も機構も法令に則って残土の処分を行っていることがわかりました。双方とも親切に対応してくださいました。しかしながら、他参加者の方が指摘していたことやいくつか気になった点もあったので挙げておきます。
・川の上流部、道路に近い受入地に、土砂が急傾斜に積まれる危険性
造成した盛土部分が災害に弱いことは想像に難くありません。実際、地震が起きた際には盛土部分が顕著に崩れていることが指摘されています。それが急傾斜であれば尚のことです。今後の行方が心配になります。
(引用)造成地盤の盤石性を指摘した論文。
・また、川の上流部に近いということも非常に気になりました。機構も黒松内町も定期的な水質検査を行っているとのことでしたが、第3者機関のチェックが入っていません。さらに、朱太川の本流での水質調査にはヒ素の濃度を計測する項目はなく、今のままでは朱太川にヒ素が流れだしてもわからない状態にあります。
・加えて、水質調査は行われているものの、ヒ素が川の生物、生態系に与える影響については全く調査が行われていません。
今までもトンネル残土から有害物質が流失し、生き物に大きな影響を与えた実例があります。
以前、黒松内でも受入地近くにある日ハムの養豚場から尿が朱太川に流れだし、被害をこうむったという痛い歴史があります。。。(黒松内町議会広報しゅぶと川 第156より)豚の尿100トン流入 黒松内・朱太川、アユ解禁を延期 2006/07/02 07:51(北海道新聞)
以上のことから、少なくとも
・朱太川でのヒ素濃度のモニタリング
・ヒ素の影響がまだ出ていないと思われる現段階での生物、生態系の調査
は最低限必要だと思われます。これらのことを町に要望として挙げていきたいと考えています。
【最後に】
黒松内町でのトンネル工事は今後ますます進んでいきます。まずは、議会に提出された請願署名がどのような扱いとなるのか、その行方が気になるところです。
現段階では受入地周辺から基準値を超えたヒ素は検出されていないとのことですが、ヒ素は人体に問題がない低濃度でも微生物には大きな影響をもたらすことが知られているので、川への影響はしっかりと見張っていきたいです。
ちなみに、北斗市の工事現場では基準値を270倍も超えるヒ素が残土に含まれ、2年間も放置されていたにも関わらず、つい最近までその事実は市民に知らされていませんでした。
たくさんの要望があって、ようやく情報が公開となったようです。
私達に全ての情報が公正に公開されていると過信は出来ないと思っています。
町や機構に任せきりにしておくのではなく、住民が関心を持ち続け、説明、改善を求め続けていくことが重要なのだと感じています。
今後、黒松内でも基準値を大きく上回る有害重金属が出てくる可能性もゼロではありません。その場合は、今の急傾斜地の場所には置けないことを機構側が明言していたとも聞きました。その時はいよいよ受入地の場所を変更してもらうしかありません。
実は私、工事が始まってしまったから場所を動かすのは難しいかもしれない…と若干諦めかけていました。でも、それではだめですね。
黒松内町だけなく、新幹線やリニアのトンネル残土受入地変更を求めて、安心安全の確証を求めて、各地の市町村、団体が声を挙げています。
『工事が始まってしまったから』『そういう風に決まってしまったから』…ではなく
妥協せず、納得出来ないことは納得出来ないと言い続けること、行動していくこと、関心を持ち続けることが大切だと感じています。
一緒に関心を持ってくれる人が少しでも増えてくれたら嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。