POD-ACADEMICは「共同出版」です
金風舎の研究者向けPOD出版「POD-ACADEMIC」は「共同出版」です。
私どものこの説明に対して、お客様から、「結局、それは商業出版なの?自費出版なの?」というご質問を多くいただいています。
「商業出版」「自費出版」という言葉は、出版にそれほど携わっていない人でもなんとなくイメージを抱く、一般にも知られた言葉ですので、「共同出版」がどちらに該当するのか、気になるところだと思います。しかし、実はこれらの言葉はたいへん曖昧模糊としていて、これだけで多様な出版スタイルを説明するには不十分なのです。
「共同出版」とはなにか? それは結局、商業出版なのか、自費出版なのか?
今回は、最終的にPOD-ACADEMICがどのような出版スタイルであるのかを、明確に理解してもらえるよう、感覚的に用いられてきた各出版スタイルを、より明確な基準で分類することを提案していきます。
・4つの出版スタイルの違い
出版スタイルで最もよく言及されるのは、先にも触れた「商業出版」と「自費出版」です。
一般的に、この二つは対立的に用いられます。
著者が出版費用を負担する「自費出版」に対し、出版社が費用を負担する出版を「商業出版」と呼ぶことが多いです。「商業出版」の最も典型的なスタイルは、「企画出版」とも呼ばれます。
この二大区分に加えて、「共同出版(協力出版)」というスタイルがあります。これは著者と出版社が費用を持ち合って出版するスタイルであり、先に触れた「商業出版」と「自費出版」の中間に位置づけられます。
さらに、現在では、「自費出版」と近い概念として、「個人出版(セルフパブリッシング)」という言葉も聞かれるようになりました。出版社や著者を介さずに著者が直接出版を行うことで、同人誌やAmazonのKDPなどが代表例です。
このような特徴は様々な文献・サイトで説明されています。そして、多くの場合、これら出版スタイルの分類の基準となるのは、先にも述べた通り費用の出処です。
つまり、出版社が費用負担していれば「商業出版(企画出版)」、著者が自分で出していれば「自費出版」という区別です。
この区別の仕方では、共同で費用を分担しあう書籍はどうなるのかという問題が生じます。こういった共同で費用を出しあうスタイルは「共同出版」とも呼ばれます。しかし、「共同出版」とは結局、商業出版なのか? 自費出版なのか? という疑問が湧いてきます。
このような本では、費用の出処を基準とすると、出版社側が1円でも負担していれば商業出版であるという立場を取るひとや、著者側が1円でも負担していれば自費出版という立場を取るひと、どちらが多く出しているかで決まるという立場を取るひとなどで、出版スタイルの認識も異なるものになってしまうのです。
さらに、学術書のように、マーケットは小さいが刊行する意義があると社会的に認められて、公私の助成金などから制作費の補助を受けて刊行される出版物の扱いも問題となります。出版にはどうしてもお金が掛かります。多額の助成を受けたらそれは結局自費出版の扱いになるのでしょうか?
ここに明確な基準はありません。
実は、同じ用語であっても、その内実は会社ごとにまちまちです。出版業界では、出版社ごとにルールや用法が異なっていることがしばしばあり、そういったルールを「ハウスルール」などと呼ぶことがあります。これらの言葉は、まさしく「ハウスルール」や、特定分野でのみ慣習となっている「分野ルール」で運用されてしまっているのが現状です。
加えて、近年、セルフパブリッシングなどの新たな個人出版の形態が年々増えており、出版スタイルとしては決して無視できない存在になってきています。助成金を受けた出版は、このような個人出版と同一の枠組みに分類されるのでしょうか?
「商業」「自費」という呼び名から連想される費用の出処による分類では、上のように、不明確で不安定な分類に甘んじる他ありません。これらはよほど典型的な例でないかぎり、個別のケースを示すに足る分類ではないことは、上に述べた例を見てもお分かりいただけるかと思います。このような恣意的な呼び分けは、単に不便などということだけでなく、実際に執筆する著者にとって大きな不安に繋がってしまうこともあるでしょう。自分の持ちかけた/持ちかけられている出版がどういう立ち位置なのか、理解したいと思う人がいるのは当然だと思います。
・出版スタイルの分類基準の提案
そこで、この記事では、まずはこのような恣意的で不明瞭で、いたずらに不安をあおる出版スタイルの呼び分けを整理し、明確な基準で分類することを試みます。
まず、上で述べた4つの出版スタイル(「企画出版」「共同出版」「自費出版」「個人出版」)の特徴について、複数のサイト・文献の説明から共通項をまとめてみます。
【企画出版】出版社が制作・販売する、いわゆる「商業出版」でイメージされる典型的な出版スタイルです。
・出版社の判断で商業的な流通に乗せ、広く販売する
・出版社が出版にあたる費用を全て受け持つ
・出版社が費用を払うので、印税が発生する
・出版社(の代表)が発行者となり、出版物に対する対外的な責任を持つ
という特徴を持ちます。
【共同出版】著者と出版社が共同で費用を持ち合う方法です。
・制作費は出版社と著者の両方が負担しあう
・出版社負担分に対しては著作権使用料が認められ、「印税」が発生する
・発行者は出版社(の代表)となり、出版物に対する対外的な責任を持つ
・原則として出版社の判断で商業的な流通に乗せ、広く販売することを目的として行われる
【自費出版】著者が費用を出して出版する方法です。ただし、この呼称が最も恣意的に用いられやすく、複数の説明を総合すると共通するのは以下のような特徴です。
・著者が出版に対する費用を支払う
・発行部数に発行者との契約上の制限がある
・著者が費用を負担するので、基本的に「印税」が発生しない
・著者の意向が最大限考慮される
・発行者は出版社(の代表)となり、出版物に対する対外的な責任を持つ
・商業的な流通に乗せるかどうかは著者の判断による
【個人出版】出版社を介さず、著者が直接出版するスタイルです。
・全ての費用を著者が負担する
・制作・進行管理・流通販売まで全て著者が行う
・発行者は著者本人
・商業的な流通に乗せることは難しい
・全て著者本人の自由に制作できる
・印税は発生しえない
以上の列挙された特徴を、以下の4点に絞り、整理してきます。
出版スタイルのポイント4項目
①流通上の観点:商業的な流通に載せることが可能か
②費用上の観点:誰が費用を負担するか
③著作権使用料の観点:印税は発生しうるのか
④責任上の観点:だれが発行者となるか
これらの項目を、方法ごとにまとめてみます。
まず、出版スタイルごとに見ていくと、企画出版・共同出版・自費出版では、できること自体には案外差がないことが分かります。
違いが最も差が大きいのは個人出版です。著者の好きなように自由に本づくりができる反面、流通・権利・責任の観点で他の3つとは異質であることが分かります。
次に、観点別に見ていきます。これまで用いられてきた「費用上の観点」を見ると、やはり「共同出版」が境界となることがわかります。「少しでも著者負担があれば商業出版ではない」という立場であれば費用的観点での分類でよいでしょうが、先にも述べた通り、学術出版などではそれでは片付けられない中間的な事例が多くみられます。分野によってはオーソドックスとさえいえる出版スタイルを適切に分類できないのでは、分類の基準とするにふさわしくないのではないでしょうか。
では何が基準に足る観点であるのか。
私どもは、出版方法を考える上で指標とすべきは、「だれが発行者となるか」であると考えます。
発行者とは、その出版物の発行にかかる責任者を指し、出版物に対する対外的な責任を負います。発行者の記載は、法的には義務ではありませんが[日本書籍出版協会「著作権Q&A」 https://www.jbpa.or.jp/copyright.html(2024年8月6日参照)]、慣行上、出版社から出る書籍に奥付を付ける際には、その代表者が発行者として記載されます。この記載があることで、その出版物に対する対外的な責任の所在が明確になることになります。例えば乱丁などの印刷・製本ミスがあれば出版社は読者(顧客)に対して交換等を求められることもありますし、流通を管理する責任も生じます。
すなわち、出版者やその代表者が「発行者」として奥付に名を連ねる出版物は、おなじく費用が著者の持ち出しであったとしても、その全てが著者本人である出版物とは一線を画すといえます。
この基準をもとに、わたくしどもは以下の図のような分類を提唱します。
まず大きく、発行者が出版社(の代表)である場合、商業的に責任を持って出版するという意味で「商業出版」、発行者が個人である場合、責任は個人で負う限りであるという意味で「個人出版」に分けられます。そこから、商業出版の中で、費用負担の程度の違いにより、「企画出版(出版社が費用を持つ)」「共同出版(著者と出版社が費用を持ち合う)」「自費出版(著者が費用を持つ)」に分けられます。
・「POD-ACADEMICは共同出版です」の意味
分類の説明が長くなりましたが、本稿はPOD-ACADEMICは「商業出版なの?自費出版なの?」という質問にお答えするために進んできました。
この質問への答えは、最初にも述べた通り、POD-ACADEMICは「共同出版」です。
ただし、「POD-ACADEMICは共同出版である」という答えは、ここまで説明してきた金風舎の考える出版スタイルの分類では、より具体的に次のように説明できます。
POD-ACADEMICは、「商業出版」(責任の観点)であり、「共同出版」(費用の観点)です。印刷にはPOD出版(手段)を利用します。
ここで、「POD出版」を利用するというところに(手段)と付けたのは、理由があります。
POD-ACADEMICというPOD出版サービスは、手段としてPOD印刷を利用することに加え、PODの特徴を生かした出版を提案する新機軸の「POD出版サービス」でもあるのです。
この点については、次回のnoteでご説明していきます(次回は8月30日を予定しています)