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ひとりぼっちの案山子とムクドリ

むかしむかし、とある田んぼに一本の案山子が立っていました。
けれど、その案山子は少し変わっていました。なぜなら… 案山子なのに歩くことができたからです。

案山子は毎晩、田んぼを歩き回って、鳥たちが来ないか見張っていました。朝になると元の場所に戻り、まるで動いていないふりをしていました。


夜の散歩

でも、案山子にはずっと気になることがありました。

「どうして僕は歩けるのだろう? 他の案山子は動かないのに…」

誰にも聞けないまま、一人で田んぼを歩き続ける日々。案山子は、誰かに教えてほしいけれど、人に聞くということを知らなかったのです。


山のふもとへ

ある日、案山子は田んぼを越えて山のふもとまで歩いていきました。
すると、木の枝にちょこんと止まったムクドリに出会いました。
ムクドリは案山子を見て、びっくりして叫びました。

「なんだこれ!? えっ、案山子が歩いてる!? 案山子って歩けるの!?」

案山子はムクドリが自分に気づいたことが嬉しくて、少し恥ずかしそう答えました。
「うん、僕は歩けるんだ。でも、どうして歩けるのか自分でもわからないんだ。これっておかしいのかな?」

ムクドリと会った

ムクドリは首をかしげて言いました。
「おかしいかどうかなんて気にする必要ある? それより、歩けるならいろんな場所を探検したら楽しいんじゃない?」

案山子は考え込んでしまいました。
「探検…? でも、僕の役目は田んぼを守ることだし、他の場所に行くなんて考えたこともないよ。」

ムクドリは笑いながら言いました。
「そんなの、歩ける案山子だからこそできることがあるんじゃない? 田んぼを守るだけじゃなくて、歩いて見つけたものをみんなに教えてあげるとかさ!」

歩く案山子のできること

その言葉にハッとした案山子は、初めて山を登ってみることにしました。スズメが先導して案内してくれます。山には見たことのない花や動物たちがいて、案山子は心を躍らせました。そして、こう思いました。
「歩けるのは僕だけの特別な力だ。この力を使って、もっとたくさんの景色を見て、田んぼのみんなに話してあげよう!」


案山子は、ムクドリとの出会いを通して「歩ける理由」を考えるのをやめ、自分の特別な力をどう活かすかを考えるようになりました。そして、案山子は田んぼを守りながら、見つけた素敵な世界を他の案山子たちに伝える案山子になったのです。


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