『納豆リズムデイズ』

納豆の豆感が好き。
そういう人は毎日淡々としていても、ルーチンワークが続いても、わりと平気な顔をして、小さな幸せに大いに満足して暮らしている、気がする。


耳元で目覚ましの音がして、瞼にわずかな力を入れる。目やにのせいで開かない。夢を見ながら泣いたらしい。眠りが浅いのか、最近こういうことがままある。
どうにか手で目頭をこすり、変わり映えのない、いつもの生活空間を一望する。
「はあ。」
涼奈はため息を一つ。何とか立ち上がり、唯一の朝の楽しみである甘いカフェラテの準備をする。そうはいっても湯を沸かし、洗い場に放置されたスプーンとマグカップを洗って、袋の封を切って粉をカップにそそぐ、ただそれだけのことである。
こぽこぽと沸きはじめた音がして、ガスコンロの火をとめ、カップに熱湯になる前の湯を注ぐ。すぐに顆粒がとけて、カフェラテの良い香りが立ち込めた。
「はぁ」
涼奈は先ほどと違うため息を漏らす。
今日は天気がいいらしい。東南向き、角部屋の涼奈の部屋は朝が一番明るい。キラキラと濁ったガラス窓が輝いている。
涼奈は冷蔵庫の扉を開き、朝ごはんを食材を探す。
干からびかけているほうれん草と、梅干しと納豆…。
涼奈は冷えた個室に手を伸ばし、納豆を取り出した。賞味期限は明日。明日の自分は朝納豆を食べたいか分からないので、今朝食べてしまうことにした。

そういえば昨日バイト先のおばちゃんが、納豆の大豆感が好き、だから大粒が好きだと言っていた。
涼奈は目下にある納豆を見る。
ネバネバの白い糸が豆たちを結束させている。
ひきわり納豆。
たれの味は濃いめの梅ペースト。

涼奈は豆のあの素朴な味には耐えられない。
でもこれら始まる生活は、豆、豆、豆、かもしれない。
淡々として、素朴で、劇的シンデレラストーリーはきっと宝くじに当たる確率に等しい。
納豆をご飯に乗せ、かきこむ。先程飲んだカフェオレの味と喧嘩しているけど、それは鈍感にやり過ごす。

今夜バイトが終わったら買い物に行こう。
小粒納豆、昆布だし味を探しにいこう。
僅かな変化で納豆を美味しく食べていこう。


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