着物を29年着続けた先に見えた逸品「本場結城紬」 vol.2 【イッピン着物#1】
「その①」は、男着物の逸品・結城紬の基礎編になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
さて今回は、「着物を29年着続けた先に見えた逸品「本場結城紬」の、3つのこだわり」についてお話させていただきます。
1) 横糸に使う糸は、160細工の糸
「男性モノの地機の結城紬」も少ないのですが、今回の着物は、「杢糸(もくいと)で、男物の結城紬」が出来上がってきました。
タテ糸は、「百細工(ひゃくざいく)」に使う上質な「手引きの真綿糸」です。百細工というのは、着物の反物の横幅に、「亀甲柄」が100個入る糸を使用しているという意味。上質で細く、繊細な糸です。
私たちがオーダーする結城のヨコ糸も同様に、100細工の糸を使用しますが、今回は横糸に百六十細工に使う糸を使用してもらいました。「極上のものを」と依頼しているからです。
余談ですが、「先に見積りして、いくらで作ってください!」と金額指定はしていません。言われた金額のママ。古風かもしれませんが、お金に糸目をつけないほうが、より良い最高のイッピンが出来上がるのです。
写真上:「糸取り」の現場。手の動きを食い入るように見つめる。
写真下:真珠の輝きのような「手びき真綿紬糸(まわたつむぎ糸)」
「言うは易く、行うはがたし」と諺にもありますが、より良い糸はなかなか取れません。百六十細工の糸が揃うまでには、半年。いや一年かかることもあるそうです。
縞屋さんは「同じ糸が揃うまで、ずっと我慢していました。」「そして着物一反分の良い糸が揃ったので、仕事にかかりました!」とのことです。
その理由は、糸質で仕上がりが左右されるからです。その糸こそ、結城紬の生命。分かりづらいのですが、大切な大切な着物の心臓部分でもあるのです。「待てば海路の日和あり」。注文から一年以上も待ち続けた頃、やっと出来上がってくるのも納得です。
2) 体格の良い、五郎丸歩選手方でもOKサイズ!
私たちが取り扱う着物は、タテ糸の長さが約13m(3丈4尺2分)。その長さは、男性の着物も女性の着物もほぼ一緒です。
違うのが横幅。横幅は、手の長さなどに影響します。男性の広幅は一般的に「一尺五分」(40㎝)です。「尺五分」となると、普通サイズより経糸の本数も、横糸の長さもたくさん必要です。
しかし、今回は、もっとワイドな「一尺一寸五分」(44㎝)の広幅で織りあげてもらいました。その方が、恰幅(かっぷく)の良い方でも細工を施すことなく、対応できると考えたからです。
女性の着物の横幅は、一般的に一尺(38㎝)なので、6㎝も長いことになります。それだけ大変。結城に使う糸は、普通7ボッチですが、この着物は10ボッチ使ったそうです。(一ボッチは、真綿50枚分94g。上の写真参照ください)
ゆえに、ラグビー日本代表の「五郎丸選手」のような筋肉質のワイドな方でも、海老蔵のような歌舞伎役者でも対応できるサイズとなっています。
3) 織り子さんが、とっても嫌がる仕事。
「良い糸」を紡いで、思い通りの「染上がり」、そして「織(おり)」となる訳ですが、結城紬の仕事の中で、仕事の後半戦もとっても大事です。その後半戦は「織」ですが、「織り手」によって、風合いも全く変わってくるからです。「織りは人なり」と言う言葉は、本当に言い当て妙だと思います。
織るための道具に「杼(ひ)」と言うものがあります。上の糸と下の糸の間に、横長の木を通し、ガンガンと両手で織っていく道具です。結城紬は、樫の木で作られたずっしりと重たい杼、700gもあります。それをお腹の前で糸が織り込まれるよう2~3回叩きこみ、そして、右手に左手にと移動させながら、3万回以上叩き込んでいくのです。
それを、男物の「一尺一寸五分」が仕上がるように、説明したものより、より大きな長い杼を使ってやるので、重労働です。
ゆえに、織る人もベテランさんでなければ織れません。無地なので、織の打ち込み加減で、いかようにも風合いが変わります。
( 両手で持って打ち込んでいるのが、大きな杼(ひ)です。)
プラス1:10年来の、イッピン中の珍品!
ボクは、「地機の結城紬」の他に、「高織の杢糸の結城紬」を着ています。二十数年前購入した時、着物・羽織分の長さがあったので、「袷」と「単衣」に仕立てました。
高機ゆえの着心地は横に置いといて、糸を2本絡ませて織る「杢(もく)糸の織り」は、おじーちゃん玉虫のような奥深い光沢感で、魅力の一つでした。
そこで、数年前から「地機で杢糸の結城紬」を作りたいと思っていました。とりあえず販売用ですが、和の國の財産としても置いておきたいし、自分自身が本当に欲しいイッピンだからです。しかしながら、「地機の杢糸」はここ10年来、見たことがありません。どうしてだろうと思って尋ねてみました。縞屋さん曰く、「正直、そんなマニアックな注文が来ないのと、織り子さんが大変だから」とのことでした。
今回、別注に先立ち、縞屋さんが請け負ってくれるか不安でした。
返事は、「できると思いますけど、ここ数年、いや十年以上地機で織ったことがないので、織り子さんが織ってくれるかどうか、そこが心配です!」とのことでした。
ボクの軽い思いで注文しましたが、「そのようなイッピンだったとは?」
織り子さんのことを考えると、気持ちが少し重たくなりました。
その結城紬が、先日織り上がってきました。
我が子を抱きかかえるように、両手でゆっくりと広げました。縞屋さんのこと、糸とりのこと、織る人のこと、京都の仕入先さんのことなど、「いろんな人のおかげで、今、この着物がここにあるんだな〜」と思ったら、勝手に一人ジーンときていました。
着物を29年着続けた先に見えた逸品「本場結城紬/地機/杢糸(もくいと)/男着物/一尺一寸五分幅」は、いかがでしたでしょうか。
次回は、ルーペを使って織の組織にもドーンと迫っていきましょう!
着物が大好きな皆さん、ぜひ愉しみにお待ちください。
最後まで、読んでくださって本当にありがとうございました。
他の関連noteも、ぜひお目通しください。
🔹人生60年。あと継ぎ3代目がイヤだったけど着物大好きになるまでの話。https://note.com/kimono923/n/nb489af6cc2e2
🔹着物を29年着続けた先に見えた逸品・本場結城紬vol.1【イッピン着物#Ⅰ】https://note.com/kimono923/n/ne34dfb7cf4a4
きものサロン和の國 代表/茨木國夫 090-3600-9495