オタクの資質
バカが嫌いだと言っている奴ほど馬鹿だったりしますよね。どうも、キモ=オタクです。
言語化をしてほしいという記事では、考えることができても会話ができない、言語化ができていないオタクについて考えました。ですが信じられないことに、この世にはオタクを豪語しながら何も考えることの出来ない人がいます。
私は創作者の意図などクソ喰らえという派閥に属していますが、それはそれとして創作物を見たまんま、字義通りにしか受け取れないのは悲惨なことだと思います。大トロを捨てていた江戸っ子のようなもんです。しかし、大トロを食べるのに保存技術が必要だったように、作品をより多面的に見るためには知識や技術が多少なりとも必要です。今回は2つのツールを紹介していきます。
図像解析
写真、イラストなどを分析するような視点から見ていくことです。とは言ってもよく分からないと思うので、具体例を1つ示します。
これ、なーーんだ?まあ分からないと思います。
まず前提条件として、これは壁画の一部ですが、非常に大きく左から右に見ていくものとなっています。
じっくり見てみて、これが何だか少し考えてみてください。
さて、解説に写ります。
まずこの壁画は何かというと、メキシコ合衆国の独立までの歴史を示したものです。識字能力のない人にも理解できるようにと、壁画というメディアが採用されています。
左から右に見ていくと述べましたが、この壁画はそれを利用して右に行くにつれて時間が進むようになっています。したがって、左から見ていきましょう。
左端を見てください。上には教会や議事堂らしき建造物、その下に聖職者やら偉そうな雰囲気の西洋人がいますね。さらにその下には半裸や全裸でボロ衣を纏った浅黒い肌の人々がいます。倒れたり泣いたりしている人もいます。
人が人の上にいる、これは典型的な支配の構図です。白人らの上とも後ろとも見える位置にある建造物は、か彼らの背後にある強大な力を示しています。
これは、現実でのメキシコの植民地時代を意味しています。スペイン副王領とされたメキシコは、副王を中心にスペイン本国から派遣された官僚らによって支配されてきました。そこでの支配は苛烈なものがあり、先住民はその多くが死に絶えました。
では続いて中央に目を向けてみましょう。
松明を持った人物と、聖母を描いた旗、そして多くの浅黒い肌の人々が見られます。
松明を持った白髪の神父の出で立ちをした人物は、メキシコ独立の英雄のシンボルです。故に彼が群衆の先頭に立ち、松明を持っているのです。
この松明とは、暗闇を照らすアイテムです。暗い歴史を明るいものに変えようと試みる人物、と換言してもよいでしょう。
そしてこの松明の炎にも注目しましょう。異様に大きく描かれています。炎は、強い感情を示す記号として度々出現します。独立に向けた蜂起に向けての演説はとてもセンセーショナルなもので、求心力も非常に高いものでした。そのような独立に向けた強い意志、支配に対する激しい怒りが炎を通じて描かれています。
……と、メキシコの歴史解説記事ではないのでこのあたりにしておきましょう。
しかし、ある程度じっくりこの絵を眺めれば、メキシコの歴史についてそこそこの理解を得ることが出来ます。それこそがこの壁画製作者の狙いであり、これを見る人に求めたことでした。
オタクであるために求められるものの1つ目、それはイラストや映像作品のシーンを鑑賞し、分析する能力です。少し実践してみましょう。
色々あってもう辞めたのですが、少し前までアイドルマスターにオタクとして取り組んでいたのでそこでの実践例を挙げます。
このイラストに描かれている岡崎泰葉というキャラクターに関しては、これらの記事を参照してください。
どちらも私が過去に書いた記事です。軽く一読して岡崎泰葉についてある程度の理解を得た上で読んでいただけるとわかりやすいです。
ここには様々なイラストによく登場するモチーフである、「鳥籠」や「額縁」が描かれています。
鳥籠は鳥を閉じこめるものであり、転じて不自由さを象徴するアイテムとなっています。「鳥籠の中の鳥」なんて言われた場合に想起されるのは、自由を奪われた状態です。
しかし、このイラストでは鳥籠の扉が開いています。扉が開けば鳥籠の中の鳥も飛び立つことができ、再び自由な状態に戻れます。
つまり、「扉の開いた鳥籠」は、失っていた自由を取り戻したことを意味する記号となっているのです。
続いてその近くにある額縁です。
額縁には絵画や写真が飾られます。ただの絵画などではなく、優れた作品を飾ることが普通です。
しかし、描かれている額縁の中には何も入っていません。これから何かを飾ることができる状態です。
「空の額縁」は、まだ自分が未完成な状態であり、ここから成長して額縁に飾るような洗練されたアイドルになる、ということを示唆するアイテムとなっています。
そしてこの2つのアイテムの配置にも注目してください。鳥籠が奥で、額縁が手前です。この位置関係は過去と未来を示します。奥が過去、手前が未来です。
このイラストの左下にある「扉の開いた鳥籠」と「空の額縁」という2つのアイテムだけで、不自由な過去を克服して最高のアイドルになろうとしている、というストーリーが表現されています。
壁画についてもオタクイラストについても、同様の手法で分析することができました。
このメソッドこそが、オタクであるからには持っていなければならないスキルの1つです。
読解力
ぶっちゃけここまで読んでくれた皆さんは最低限の読む力があります。何せこの時点で2,000字超えてますからね。しかし、これすらできないオタクが多いのが嘆くべき実情です。
そして読解力といった場合には、ただ文字を読むことに加えて、いわゆる行間を読む力も含んでいます。
有名な例でいえば、「月が綺麗ですね」を“I love you”に読み替える能力です。
ここには背後にあるロジックに気付かなければなりません。日本人は古くから視点を相手に向けないことを美徳としました。欧米の挨拶が相手の目を見て握手なのに大して日本の挨拶が視点を下にやるお辞儀なのにも、そうした価値観が働いていたとされています。
そして、その視線が向かったものを相手と共有することにより、そのものに相手を仮託するのだともされています。
つまり、「月が綺麗」と言った場合の「月」とはその場で共に月を見ていた相手であり、「月が綺麗」は「あなたはとてもお綺麗ですね」と言い換えられます。そして相手の容姿を直接的に褒める言葉が愛の告白だと解釈できるため、「月が綺麗ですね」は“I love you”なのです。
行間を読む力とは、多くのものを知り、そして書き手や話し手のバックグラウンドを想像することです。オタクとして漫画やラノベを読んだり、ソシャゲのエピソードを読んだり、アニメを見たりする際にこのような能力があればあるほど物語を広く深く味わうことができます。作品について論じる上では欠かせない能力であることは言うまでもありません。
終わりに
図像を分析する能力と読解力。この2つがオタクとして存在するために必要なスキルだと考えています。
この記事を書いている期間中に博報堂の雑誌『広告』417号の一部を拝読していたのですが、「文化を育むよい『観客』とは」と題した寄稿がありました。そしてその中に以下のようなことがありました。
SNSでの発信が容易になり、誰もが簡単に感想を製作者に届けられる時代にオタクに求められるのは、より良いものを作るように、感受性のアンテナを高い感度で張り、質の高いフィードバックを与えることです。
SNS時代では、そのようなフィードバックも数が少なければ、大多数の愚かなオタクの「泣いた」「笑った」「面白い」「エモい」程度のカスみたいな感想に埋もれていきます。そのような感想が許されるのは、たまにしか創作物に触れない一般人までです。オタクたるもの、質の高いものを提供しなければなりません。
そのようなオタクが増えていけば、これからのオタク文化も安泰です。オタク文化をより良く継承してくために、まずはオタクの資質を身につけていきましょう。
以上、オタクコンテンツに触れるのをやめたキモ=オタクのオタク抜きこと、キモでした。
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