2022年 この小説が面白かった6選
年も明けてずいぶん時間が経ってしまいました。
2022年はただでさえ読書量が減っているのに加え、積読ならぬ読了後の積みレビューも嵩んでしまったので、今年は6作品で。
ネタバレ気味の内容になりますので、ご注意ください。
過去の年間ベスト10はこちら
「獏の耳たぶ」 芦沢 央
第三者の悪意による取り替えではない。取り替えたのは母親の繭子。故意ではあったが悪意はなかった。あまりにも追い詰められすぎていて、むしろその方が子供のためにも良いだろうと信じて。真実を知っている繭子も知らない郁絵も、自分は母親に相応しくないのではと悩みつつ、そして発覚。
この題材なのだから、ハッピーエンドなんてありえないことはわかっていたが、加害者と被害者と括るのはちょっと乱暴で、でもやっぱり誰も幸せにならないことをしてしまったことは事実で。
これは映画化されるんじゃないでしょうか。してほしい。
「正体」 染井 為人
分厚い。普通の文庫本2冊くらいの厚さがあるが、読み終えてみればそれを全く感じさせないほど、読みやすく没頭させてくれる一冊。
死刑判決の脱獄犯の逃亡生活が中心。正体がバレそうになると潜伏先も顔も
名前も変えて、決して目立たずひっそりと。関わった周りの人たちの目線で描かれ続けるので、一家惨殺の凶悪さを秘めているのか垣間見える人の良さが正体なのかを想像させながら適度に引っ張る構成も良かった。そして最後の転結。
あとがきによると賛否両論あったようだが、この結末がベストだったように思える。
亀梨和也主演でドラマ化されたようです。
「人間にむいてない」 黒澤 いづみ
ニートを拗らせるとおぞましい異形に変異する。こんな事象がすっかり社会に認知され法律も整備された世の中のお話。蜘蛛っぽいもの肉塊っぽいもの犬っぽいもの観葉植物っぽいもの亀っぽいもの、その形状は千差万別。ある日ついに異形になってしまった息子、心のどこかで覚悟していたものの諦めきれない母親、対して割り切る父親。
正直、この小説だけを読んでいたらそこまでだったかもしれないが、ほぼ同時期に千原ジュニアYoutubeで伊集院さんがカフカの変身の話をしていてブッ刺さってしまった。なるほど虫ケラか。
「楽園の真下」 荻原 浩
刃牙でお馴染みの巨大カマキリが刃牙のいない世界に現れた。ともすればチープになりがちなテーマだけれど、侮るなかれ、抜群に面白かった。
当初は17センチだったカマキリ目撃情報が、20センチになり30センチになり。
昆虫界では屈指の凶暴さを誇るカマキリとの対峙、そしてカマキリと言えば忘れてはいけないハリガネムシ。発生した要因も最後の結末も、対カマキリ一辺倒にならない構成で惹きつけられる。
映像化されたところも見てみたいけど、これは中途半端にしたら失敗するパターン。NETFLIXあたりでしっかりお金をかけて。
「生命式」 村田 沙耶香
村田沙耶香といえばクレイジー。
故人を火葬するのではなく、(ちゃんと調理して味噌の鍋等で)食べることで偲ぶことが当たり前になった世界。
動物の毛皮よろしく、死んだ人間も素材として使える、むしろリサイクルであり素晴らしいこととして、髪の毛、骨、歯、爪、皮膚を素材とした洋服や家具が高級品とされている世界。
こんな世界観から、「関わるコミュニティごとにキャラが異なる」「食文化の違い」を究極まで振り切った、クレイジーさの中にもどこか共感してしまう話まで。
定期的に浴びたくなるのが村田沙耶香ワールド。ぜひ一度は触れてみていただきたい。
「彼女が最後に見たものは」 まさき としか
前作「あの日、君は何をした」がとても良かったので、期待しつつハードルも上がっていたが充分に満足。
ちょっと多めな登場人物が、ここまで見事に繋がっていて、それでいてページ数も多すぎず。こういう事件ものは加害者や被害者に注目しがちだけれど、やはり軸となる刑事のキャラクターが重要なんだなと。人情系でも熱血系でもないこの刑事だからこそ、その観点に惹かれて状況説明だけのシーンにならない魅力がある。
そして最後の切なさにはもう。
小説好きな人にはもちろん、あまり小説に馴染みがない人まで、幅広くオススメできる一冊です。
#小説ソムリエ 始めました。 普段あんまり小説を読まない人でも、趣味・好きな映画などなどを伺って、あなたに合った小説をおすすめします。