【短編小説】バス停 第一話 貴婦人
ある暑い夏の日、わたしはバス停で美しい貴婦人に出会った。
その人は白いトップスに白いパンツ、髪はグレーのロングヘア。とても素敵な帽子を身につけていた。
「おばあちゃん」というには申し訳ない気持ちになるくらい綺麗で若々しい。
話し掛けるには緊張するが、なかなかバスが来ない。
チラッとその貴婦人を見ると、目が合い、微笑まれた。
動揺したわたしは、
「暑いですね」
と言った。
とっさのことだったが、もう少し気の利いた言葉が出てこないものかと、自分が情けなくなった。
しかし、貴婦人は先ほどと同じ微笑みで、
「暑いわね。ふふ」
と答えてくれた。
バスがだんだんと近づいてくるのが見える。
わたしはどうしても貴婦人に尋ねてみたくて、勇気をふりしぼって、こう聞いた。
「どうやったら、あなたのようになれますか」
すると貴婦人はこう答えた。
「自分らしく」
わたしはその答えが腑に落ちず、すっきりとした気分にはなれなかった。
眉間に力の入った表情をしているわたしの顔を見て、貴婦人はまた笑みを浮かべてバスに乗り込んだ。
わたしは続けて乗ろうと足を踏み出すも、すぐにドアが閉まって乗ることができなかった。
貴婦人を乗せたバスの後ろ姿をわたしはただ静かに見送った。
(つづく)
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