
マスク1枚のもどかしさと空白の優しさ
BUMP OF CHICKENが2年8ヶ月ぶりに行った有観客ライブ『Silver Jubilee』
その2日目、本来なら結成記念日にあたる2/11に行われるはずだったライブで藤原基央はこんなことを語った。
「世界がこんなことになる前に君達が、君が歌ってくれていた曲の部分はそのまま空白にしてあります。」
「こいつにならなんでも話せるってくらい仲がいい友達がなにかの理由で学校に来れなくなったとして、その空席には誰かが座るわけでも、席が撤去されるわけでもない。ずっとそこにあって、早くそいつが来れるようにならないかなーってずっと待ってる。そんな気持ちでいます。」
BUMP OF CHICKENのライブに行くようになってから、なんだかんだと年1くらいはライブを観る機会があった。
ライブの開催が難しい期間が続き、ようやくこぎつけた2年8ヶ月ぶりのライブ。
2年8ヶ月の間に世界の様相は一変してしまった。
エンタメ業界にはあまりにも厳しい時期を乗り越えて、様々な制約を強いられた上ではあるが当たり前のように全国各地でライブが行われるようになった。
マスクの着用、歓声・発声の禁止
それ自体にケチをつけるわけではないけど、シンガロングや想いを伝えられないことは何よりも寂しい。
冒頭のMCの直前に演奏した『天体観測』では、最後のサビ前にオーディエンスが歌うお決まりのパートがある。
このパートはどうするんだろうか、藤原基央が原曲通り歌うのか、コーラス隊がカバーするのか…
彼らの答えは『空白』だった
演奏はされているけどステージからもフロアからも誰の声も聞こえない。
そんな場面を受けての件のMCがあったわけで、こんなクサイことを後から言うあたりが実にバンプらしい。
アンコールで最新曲『クロノスタシス』、
さらに未発表曲『木漏れ日と一緒に』を披露し、もう一曲付き合ってくれという言葉の後鳴らされたのは『ガラスのブルース』
古の頃から彼らのライブのセットリストに組み込まれてきたBUMP OF CHICKEN始まりの曲であり、最近ではアンコールのラストを飾ることも多いまさに象徴ともいえる曲。
この曲は観客に歌うことを任せる箇所が多い。
ガラスの眼を持つ猫は星になったよ 大きな声も止まったよ
命のカケラも燃やし尽くしてしまったね 得意のブルースも聴けないね
ガラスの眼を持つ 猫を思い出して
空を見上げて ガラスのブルースを
このパートの合唱はBUMP OF CHICKENのライブのハイライトともいえるが、大合唱が封じられたこのライブでは一体どうなるのだろうかと少し不安に思っていた。
誰も声を発しない、『空白』がその場を支配していた。
それを同調圧力と言ってしまえばそれまでだし、民度が高いという一言で片付けるのも寂しい。
でも確かに、会場中が大合唱していた。
これほどまでに愛おしい『空白』を僕は知らない。
それと同時にもどかしさを感じてしまったのも事実。
たった一枚のマスクを隔てるだけでこんなにも心が見えなくなるのか、自分を伝えることができなくなるのか。
そんな事実を改めて突きつけられたような気がした。
この空白を埋められる日が来るのはいつになるのだろうか。
そんなことをぼんやりと思いながら、急遽披露された『くだらない唄』に涙した。
