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シオという名の猫

昔々あるところに
シオと呼ばれる猫がいた。

彼女は猫であったが
二足歩行がとても上手で
いつも優雅なドレスを着ていて
薔薇を愛する猫であった。

彼女には「ボク」という
飼い猫がいて、
とても大事にしていたが
「ボク」は大してシオが
好きなわけではない。

彼女はいつも辛そうだったし
「ボク」は四つ脚でしか歩けないことを
恥じていたからだ。

「ボク」はシオにされるがまま
撫でられて、毛繕い。
目ヤニだってキレイにされる。
どうだっていいだろって顔をして
心ではウットリしている「ボク」。

シオの密やかな愉しみは
マタタビフレーバーの
ドリンクを飲むことだったが
一瞬で腰が抜けたように
トロトロになり
まるでワケの分からなくなるシロが
たまらなくイヤだった。

彼女がドリンクの栓を
ポンって開ける音がしたら
「ボク」は素早く身を隠す。

暗闇でジッとしていると
眠くなって寝てしまい
しばらくウトウトするのだったが
そう長くは眠れない。

シオが伸びて
イイ気持ちになっていたら
そっと毛布を引っ張って
掛けに行く。

「ボク」は大して彼女のことが
好きではないけれど
嫌いではない優しさ。

何より命の次に大事な
餌をくれる猫でもあるから。




シオが辛そうにしているワケが
気になるかい?

彼女は猫だからさ、
二足歩行が負担なんだ。

軋む体を支えて
踏ん張って生きてる。

やめればいいのにって思うかい?

シオはキレイなドレスを着て、
気取った生活を捨てられない。

ふわふわな前足で
しっかりカップを掴んで
優雅に香りなんて嗅いでいる。


呆れたことに
シオは二足歩行に飽き足らず
喋ろうと頑張っている。

練習したって
出来こっこない。

そんなシオは
みんなの憧れの的で、
みんなシオのようになりたいって
思っている。

二足歩行を習得しようと
頑張ってみても
そりゃなかなか出来ないだろう。

そんな猫たちを尻目に

ある時シオは言ったんだ。

「ごはん食べる?」

シオは遂にやり遂げた。

それからと言うもの
シオの進化は凄かった。

「アタシ、マタタビエキス飲むわ」

ポンって栓を抜くより早く
そう言った。

酔っ払いの相手なんて
するものではない。

四足歩行の「ボク」は
彼女の何倍もの速さで
すっ飛んでいける。

シオは「ボク」に追いつけない。


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