ドラマじゃない!本当に死ぬかと思った刑事のお話【丸腰VS日本刀編】
※アイキャッチはクリエイターoldtakasuさんの画像です
これまでに何本かnoteに記事を書いてきて、真面目な内容であったり、ちょっとみなさんに考えてもらいたい内容だったりといったものが続いた感があります。
私は基本的にちょっとおふざけが過ぎるタイプの人間なので、真面目なことばかりをしゃべっていると肩がこります。
というわけで、noteのダッシュボードを見たところ意外と人気が高かった「本当に死ぬかと思ったお話」を久々にご披露します。
とある港町での勤務中…
私の警察官としての勤務経歴のなかに、1年だけ『幹部交番』という場所での勤務がありました。
※地域によって差がありますが『警部交番』と呼ぶこともあります
交番といえば、ひとつの街に数箇所あるイメージだと思いますが、警察署から遠く離れていたり、市町村の統廃合で警察署がなくなった街であったりすると、幹部交番が配置されます。
どこが普通の交番と違うのかというと、交番の中に『係』があることです。
普通の交番は、地域課という部署のいわゆる『お巡りさん』だけしかいません。
ところが、幹部交番には、刑事・交通・生活安全といった専門員が配置されています。
交番というよりも「小さな警察署」といったイメージのほうがわかりやすいでしょう。
その年、私は警察署の刑事課から片田舎の港町にある幹部交番の刑事係として配置されていました。
最初は「どうせ田舎」となめくさっていましたが、ひとつの街の刑事事件をすべて一人で担当することになるので、おそろしい激務となりました。
日付が変わる前に帰るほうが珍しいし、ちょっとしたケンカ程度でも事件化するならすぐに呼び出されるし、残業時間が200時間オーバーなんて当たり前の勤務。
でも「この街の事件はすべて自分が解決している」という満足感があって、それなりに楽しく勤務できていました。
そう、あの夜、死にそうになるまでは…
え?日本刀?
その夜も、抱えていた事件の書類をまとめるために遅くまで残業していました。
気づけば23時を超えていて、そろそろ日付が変わるというころでした。
「日付が変わったら帰ろうかなぁ…」
と悠長にしていたのですが、まさに日付が変わる直前に110番司令が鳴り響きました。
110番司令のシステムは各都道府県で異なりますが、当時の当県では「ピーコン・ピーコン」という大きな音が鳴ったあとで、司令室の方から音声で司令されると同時に、専用の端末に内容が表示されるシステムでした。
以下、司令室の音声司令を、記憶している限りで忠実に再現します。
至急至急(2回続けていいます)、◯◯管内◯◯町の居酒屋「△△」において、中年の男性同士が酔ってケンカ。
一方の当事者が切られて負傷。
相手の男は手に日本刀を持っている。
通報者は店主の女性、店内には当事者2名と女性のみ。
付近の移動局(※パトカーのこと)は現場急行せよ。
は?
日本刀?
そんなもの、なんで居酒屋で振り回してんのさ…
っていうか、1人は切られて、店内にもうひとり女性がいるってこと?
それ、やばくない?
お巡りさんがモタモタしていたので単独で急行!
「あぁ、もう30分早く帰っていればよかった…」
そんな不謹慎なことを考えつつも、やはり身体は自然に動くものです。
すぐに捜査用のジャケットを羽織って、覆面車両のキーを取りました。
ただ、大きな問題がひとつありました。
「付近の移動局は急行せよ」という司令でしたが、なんとその移動局は交番に帰ってきていて、しかものんびりと休憩していたのです。
もちろん、司令を聞いてとっさに動き始めてはくれましたが、それはもう呆れ返るくらいモタモタしていました。
中年のお巡りさんが新人に「おい、盾はパトに載ってるか確認しろ」とか「耐刃用のグローブはどこにあったかのう?」なんて悠長な構えで、なかなか出発する気配がないのです。
事態は一刻を争う状況。
もしかすると、こうしている間にも兇刃の前に死者が出ているかもしれないのです。
相手が刃物だとわかっていれば、複数の警察官で対応するのは当然。
だって、危ないじゃん。
ところが、跳び出て現場に向かうなんて気配もないことに呆れてしまった私は「先行しますんで!」と単独で現場に急行してしまいました。
覆面車両に盾もグローブもなく、しかも自分はけん銃も警棒も持たない、見事な「丸腰状態」であることさえ忘れたままで…
日本刀キラリ☆
現場の居酒屋は幹部交番から車で5分程度。
あっという間に現場到着です。
素手はさすがに怪我しそうな気がしたので、運転用の合皮製グローブをはめて居酒屋に突撃しました。
ガラガラガラ…
そこには、目を疑う光景がありました。
店内の中央付近に男性が倒れています。
床にはおびただしい血液があり、カウンターの中には店主とおぼしき女性がひとり。
で、倒れている男のそばには、スキンヘッドの「見るからにヤクザでしょ」風の男が「うおぉぉぉぉ!」と雄叫びをあげながら、高々と日本刀を振り上げていたのでした。
もし私が刑事じゃなかったら、間違いなく「やべー」と言いながら店外に脱出している展開です。
しかし、残念ながらそこはお仕事だし、それ以上の使命感がはたらいたと同時に、身体中のアドレナリンが瞬間沸騰しちゃいました。
「くぉるあぁぁぁぁaaaaaa!」
訳のわからない大声をあげながら男に突進している最中に、男の頭上に構えた日本刀が「キラリ☆」と光ったことハッキリと記憶しています。
ほんの一瞬の出来事でしたが、チラッと両親の顔が脳裏をよぎりました。
思い切り体当たりすると、男は反対側の壁に激突して日本刀を落としました。
カウンターの出口付近に落ちたので、店主の女性に向かって大声で言いました。
「それ!取って!早く!!」
日本刀から指紋とか採取するんじゃないの?という疑問にまでは考えが及びません。
とにかく日本刀を確保してしまえば、あとはどんなに歯向かってきてもブッ倒せばいいだけです。
察しの良い女性だったようで、すぐに日本刀をとって再びカウンターの中に入ってくれました。
私は、壁際に倒れた男をうつ伏せにして手を背中に回して制圧。
ここまでのファイトを繰り広げた時点で、やっとこさ交番のお巡りさんが到着。
男を銃刀法違反で現行犯逮捕しました。
その後、交番で逮捕手続きの書類を作ろうとパソコンを開きましたが、思ったようにキーが叩けませんでした。
手が震えていたのです。
たしかにあの状況は、死ぬ一歩手前だった…
よかった、死ななくて。
そう思いながら、どうにも腹が減ったのでカップラーメンを食べると、自然と手の震えは収まってくれました。
事件のてん末、そしてお説教…
今回の事件は、顔見知り同士の男2人が些細なことで口論となり、一方の男がすぐ近くの自宅に帰って日本刀を手に舞い戻ってきたという流れでした。
切られた男性は、素手で日本刀を止めた際に手のひらをばっさり切られたため負傷していましたが、幸いにも生命に別状はなし。
もちろん、店主の女性にも怪我はありませんでした。
日本刀を取ってくれた女性は、応援の警察官が来るまでの間「ここなら日本刀があるって気づかれないでしょ?」と店の傘立てに差し込んで隠すというファインプレーをみせてくれました。
そして翌日…
逮捕手続きの書類作成などで、ほぼ徹夜だった私は、なぜか署長室に呼ばれました。
「おっ!褒められる?」
とちょっとウキウキしながら署長の前にいくと、どうも様子がおかしい…
「なぜキミは単独で、しかも丸腰で現場に急行したのかね?」
これは風向きが悪いような…
「刃物に対して防刃グローブも着けないで向かっていくヤツなんて死んでもおかしくないよね?」
え、もしかして、オレって今、説教されてる?
「キミが現場で刺殺されたりでもすれば、見事な不祥事だよね~」
いや、だって交番のヤツらがモタモタしてたんで…
「結果オーライとかそういう問題じゃなくて、キミの思考に問題があるんじゃないのかな?」
だって、身体が勝手に動いちゃったんだもん…
「とりあえず、始末書かいとくか?」
ウソ?褒められるかと思ったらお説教+始末書?
「まあ、逮捕手続きで忙しかったし、始末書は宿題でいいよ」
そうか、それは良かった…
んなわけあるかぁ!
せっかく自分の命をはって現場に乗り込んで、しかも素手の丸腰で「日本刀キラリ☆」にも打ち勝ったのに、まさか怒られるとは…
しかし、いま思い返してみれば、よく何も考えずに犯人に向かっていけたものだと身震いしますね。
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