上げて下げる、下げて上げる――その「褒め方」が残すもの
「大人っぽい顔つきになったけど、ファッションセンスが絶望的だね」
「成績はかんばしくないけど、いつも大きな声で挨拶できますね」
これらは我が家の子どもが実際に受けた“褒め言葉”、だ。
言葉の構造としては、前半で何かを肯定し、後半で否定、またはその逆。
これを「上げて下げる」、「下げて上げる」とも呼べる。
しかし、どちらの形も、残るのは嫌な気持ちだった。なぜなのだろう?
褒めるつもりが、刺さる言葉に
「褒める」とは本来、相手の良い部分を認め、その価値を伝える行為のはず。
そこに、「でも」「けど」といった逆接の言葉が入ることで、相手に伝わるメッセージは二重構造に変わってしまう。
「大人っぽくなったね」と言われれば、相手は気分も良くなるだろう。
でも、その直後に「けど、ファッションセンスが絶望的だね」が続くと、前半の褒め言葉は霞んで、後半の否定的な部分が際立ってしまう。
「成績はかんばしくないけど、元気に挨拶ができますね」という言葉も同じだ。挨拶を褒めているように見えて、冒頭で「成績は悪い」としっかり言及されている。
そのため、本人が最も気にしているであろう弱点が先に強調されてしまう。
褒める意図があるとしても、実際に相手に届くのは否定的なメッセージのほうだ。
言葉の意図と結果のギャップ
こうした「褒め方」をする側には悪意がないことが多い。
むしろ、「良いところも悪いところも伝えてバランスを取ろう」という意識があるのかもしれない。
しかし、受け取る側にとってはその「バランス」が成立しないことが多い。誰しも自身の未熟な部分を指摘されると、それを否定として強く受け止めてしまいやすい。
「上げて下げる」、「下げて上げる」言葉が結果的に嫌な気持ちを残すのは、そこに相手の自己肯定感を揺るがす力が含まれているからだろう。
また、否定的な言葉が強く残るのは、それが発言者の「本心」なのではないかと受け取られるからだ。
「上げて下げる」褒め方で使う「でも」「けど」の後に続く部分が、伝えたい本当のメッセージではないか、と感じてしまう。
褒めるための前置きであったはずの肯定的な言葉は、ただの飾りに思えてしまい、むしろ誤魔化しのように聞こえる。
だからこそ、言われた側は「結局自分を否定しているんだ」と解釈し、深いところで傷ついてしまう。
「褒める」と「指摘する」
じゃあ、どう褒めればいいの?かというと、 「褒める」と「指摘する」を明確に分けてみてほしい。
「挨拶ができて素晴らしい」と褒めたいなら、それだけを言う。
「成績についてアドバイスしたい」なら、別のタイミングで丁寧に伝える。
そして何よりも、相手の良い部分を褒める際には、心からその価値を認める姿勢がほしい。
最後は思いっきり要望になってしまったけられど、褒めるなら上げるだけにしましょうよ