![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/173233357/rectangle_large_type_2_c621fb253d5222d9788895dce2a61703.png?width=1200)
夢ファイル #005『囁く部屋』
夢ファイル #005『囁く部屋』
📁 記録者:貴美子
📅 日付:20XX年XX月XX日
📍 ファイルステータス:未解決
「ねぇ、あなたの部屋は、本当に“ひとり”かしら?」
夜、一人でいる時に。
誰もいないはずなのに、何かが囁く音が聞こえたことはない?
壁の向こう、天井の隙間、ベッドの下……。
決して聞いてはいけない“声”が。
もしそれが──部屋そのものから聞こえていたとしたら?
さて、今夜の夢ファイルを開きましょう。
“囁く部屋”に住んでしまった男の話よ──。
部屋が語りかけてくる
🏢 主人公:桐島悠人(28)、フリーランスのデザイナー。
彼は、ごく普通のワンルームマンションに引っ越してきた。
築年数は少し古いが、駅近で家賃も安い。
「静かで仕事に集中できそうだな。」
そう思っていた。
しかし、住み始めて一週間後──
部屋が、囁き始めた。
最初の囁き
それは、夜中のことだった。
悠人はデスクに向かい、デザインの仕事をしていた。
室内には、ノートパソコンのタイピング音だけが響いている。
その時。
──カサ……カサ……
悠人は耳を疑った。
誰かのいたずらか?
隣の部屋の声が漏れてきたのか?
彼はそっと壁に耳を当てた。
すると──
「こっちを、見ろよ……」
──壁の向こうで、何かが動いた。
![](https://assets.st-note.com/img/1738747240-sjD7ohfTNxevgil30aQO26G9.png?width=1200)
悠人は、飛び退いた。
ゾッとするような寒気が背筋を這い上がる。
ここは……誰もいないはずの部屋だ。
なのに、“何か”がいる。
いや、違う。
この部屋そのものが、囁いているのか?
「見えている、んだろ?」
悠人は、なんとか落ち着こうとした。
「……いや、気のせいだ。疲れてるんだ。」
だが、その瞬間。
壁に、うっすらと“手形”が浮かび上がった。
![](https://assets.st-note.com/img/1738747265-A6mTfpDaHU4O9oS5Qg7BCGEK.png?width=1200)
悠人は息を呑んだ。
その手形は、ゆっくりと──
壁を、こちらに向かって叩いた。
「……ここから、出ろよ……」
「ここから、出ろよ……」
壁に浮かんだ手形。
その“何か”は、壁の内側から悠人を叩いていた。
彼は息を呑み、後ずさる。
──これは、夢じゃない。
本当に、ここで起こっていることだ。
足元が震え、冷たい汗が背中を伝う。
逃げなければ。
この部屋は……“何か”がおかしい。
悠人は玄関へ走った。
しかし──
🚪 ドアは、開かなかった。
![](https://assets.st-note.com/img/1738747310-oh2Ji3LZYBaTACbPOxtnzvlu.png?width=1200)
「……嘘だろ……?」
鍵は開いている。
でも、びくともしない。
まるで、この部屋に閉じ込められたかのように。
いや、“部屋に閉じ込められている”のではない。
“部屋が、彼を逃がさない”のだ。
記憶のズレと、壁の中の声
ドアが開かない。
スマホは圏外。
悠人は、何かを思い出そうとした。
「……そうだ、管理会社に電話を──」
そう思い、メモを探す。
契約時に受け取ったはずの、不動産会社の名刺。
引き出しを開ける。
そこにあったのは──
📄 「賃貸契約書」
「……え?」
彼は書類を見つめた。
そこに書かれていた、住所が違う。
「……この部屋、302号室じゃなかったか?」
しかし、契約書には、「401号室」と書かれていた。
![](https://assets.st-note.com/img/1738748655-HaZl4OjkVzwrtBUxCmJcDSIv.png?width=1200)
悠人は、自分が住んでいる部屋を見回した。
間違いなく302号室のはずだ。
けれど、書類では401号室になっている。
……じゃあ、ここは、どこなんだ?
その時、壁が、再び囁いた。
「……お前は、思い出せるか?」
悠人は凍りついた。
──この部屋は、最初からここにあったのか?
封印された“囁く部屋”
悠人は、管理会社に電話をしようとした。
📞 「この番号は、現在使われておりません。」
「……は?」
管理会社の番号が消えている?
彼は、スマホの履歴を見た。
賃貸契約の時にやりとりしたはずの通話記録が、すべて消えている。
悠人は焦りながら、賃貸サイトを検索した。
このマンションの情報が、どこにも載っていない。
「……こんなはずない。」
契約したはずの物件。
住み始めて一週間のはず。
だが、どこにも証拠がない。
その時、壁の囁きが、よりはっきりと聞こえた。
「お前は、いつからここにいる?」
悠人は、息が詰まった。
「……一週間前から、だろ……?」
しかし、その言葉を口にした瞬間、違和感が襲った。
「……本当に、一週間前だったか?」
考えれば考えるほど、曖昧になっていく。
「……俺は、いつから……?」
壁が、静かに答えた。
「最初から、ここにいただろう?」
エピローグ:消えた住人
📅 翌日──
🏢 賃貸マンションの管理会社。
「え? 302号室の住人ですか?」
担当者が、怪訝な顔をする。
「いえ、302号室には……誰も住んでいませんよ?」
不動産会社の担当者は、パソコンを操作した。
住人リストを確認する。
──302号室、該当なし。
「でも、数日前に契約されたって……」
「ありえませんね。」
担当者は苦笑した。
「この部屋は、もう何年も誰も住んでいませんよ?」
「……そんなはずは。」
だが、検索しても記録は出てこない。
賃貸契約も、入居者情報も、すべて存在しない。
![](https://assets.st-note.com/img/1738747504-VOAGuwRC8HYmlQkZSrUpy5WX.png?width=1200)
「……でも、彼は確かにここに住んでいたんです……」
すると、担当者はふと、ある言葉を口にした。
「もしかして……“囁く部屋”のことですか?」
「え?」
「いや……ただの噂ですけどね。」
担当者は、少しだけ顔を強張らせた。
「このマンションには、“聞こえてはいけない声”がする部屋があるって……
入居者は、全員消えてしまうって。」
彼は苦笑しながら、パソコンの画面を閉じた。
「まぁ、気にしない方がいいですよ。」
──その言葉の裏で、壁が小さく、囁いた。
「次の“住人”は、お前か……?」
![](https://assets.st-note.com/img/1738747522-TsoJl3xDvzESPH8nF5gqwNWI.png?width=1200)
ねぇ……この夢ファイルを読んでいるあなた。
……あなたの部屋、本当に“ひとり”かしら?
気づかないだけで、どこかの壁が、あなたを見ているかもしれないわね……。
ほら……よく聞いて。今、この部屋のどこかで、“囁き”が聞こえなかった?
次の夢ファイルでお会いしましょう。どうぞ、良い夢を──。