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夢ファイル #001『消えた駅』
夢ファイル #001『消えた駅』
📁 記録者:貴美子
📅 日付:20XX年XX月XX日
📍 ファイルステータス:未解決
ねぇ、あなたは“消えた駅”の噂を聞いたことがある?
あるはずの駅が、ある日忽然と消える。
通い慣れた路線のはずなのに、なぜか乗っていた電車が知らない駅に停まる。
そんな都市伝説はどこにでもあるけれど……。
これは“記録”された事例。
実際に“消えた駅”で降りてしまった、ひとりの男の話よ。
さぁ、ページをめくりましょう──。
終電で降りた“存在しない駅”
佐藤和也(35)、会社員。
その夜も残業を終え、いつもの終電に揺られていた。
車内は静まり返り、乗客はまばら。ぼんやりとスマホの画面を見つめていると、車内アナウンスが流れた。
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🔊 「次は……夜ノ駅、夜ノ駅です。」
佐藤は眉をひそめる。
「夜ノ駅……? そんな駅、あったか?」
彼の記憶にはない。
通勤路線は何年も使っているが、「夜ノ駅」なんて聞いたことがなかった。
不審に思いながらも、電車が減速し、扉が開く。
🚉 降りてしまった──その瞬間、違和感に気づいた。
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🚦 街灯がまばらに灯る薄暗いホーム。
🔦 改札の向こうには人気のない駅前通り。
🕰️ 電光掲示板には『夜ノ駅』とだけ表示されている。
振り返ると、電車は静かに走り去っていく。
その瞬間、佐藤は背筋が凍った。
この駅……異様に静かすぎる。
誰もいない? いや、それだけじゃない。
音がない──風の音さえもしない。
「……やばいな。」
スマホを取り出し、位置情報を確認しようとしたが、画面には見慣れぬ表示が出た。
📴 『圏外』
「……嘘だろ?」
スマホの時計を見ても、秒針は止まったままだった。
まるで、この場所だけ時間が止まっているかのように。
“乗客リスト”と無表情な駅員
改札へ向かうと、そこにひとりの駅員がいた。
黒い制服、感情の読めない顔、無機質な声。
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「お客さま、夜ノ駅へようこそ。」
「この駅……何線ですか?」
「お客さまが乗ってきた線です。」
駅員は淡々と答える。
「そんな駅、あるわけないだろ。」
「乗客リストに、お名前がございますので。」
駅員は、手元の紙を静かに広げた。
📝 乗客リスト
そこには、整然と並んだ乗客の名前が記されていた。
そして、その最後の欄に──
🔖 『佐藤和也 夜ノ駅 到着済み』
佐藤の心臓が跳ね上がった。
「なんだよ、これ……?」
「お客さまは夜ノ駅に降りたのでございます。」
「俺は降りるつもりはなかった!」
「お客さま、夜ノ駅は、降りたら最後です。」
改札を飛び出した瞬間、駅の外の景色が歪んだ。
静寂の街と忍び寄る足音
佐藤が飛び出したのは、異様な静けさに包まれた街だった。
🚪 シャッターの降りた商店街
🏠 窓のない無機質な住宅
🚦 変わることのない信号機
まるで、時間そのものが止まった世界。
「……マズいな。」
その時、遠くで「カタン、カタン」と、何かが動く音がした。
──誰か、いるのか?
佐藤は恐る恐る目を凝らす。
すると、街灯の下にスーツ姿の男たちが立っていた。
🕶️ 彼らは無表情で、ただじっとこちらを見つめている。
目を逸らした瞬間、足音が近づく──
🚶♂️ カタン、カタン。
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「……ッ!」
佐藤は駆け出した。
だが、進めど進めど同じ景色が繰り返される。
まるでこの街が、迷宮になっているかのように。
そして、すぐ背後から──
🚶♂️🚶♂️ カタン、カタン。
男たちが、こちらへ歩いてくる。
運命の電車
佐藤は駅へ戻るしかなかった。
「電車に乗せてくれ! 帰りたいんだ!」
駅員は静かに答えた。
「次の電車は、お客様の出発時間になったら参ります。」
「……出発時間?」
その瞬間、電光掲示板が動いた。
🕰️ 発車時刻:??:??
🚋 行先:???
そして、そこに表示された新たな文字──
🔖 『次の乗客:佐藤和也』
佐藤は凍りついた。
しかし、すぐに電車が滑り込んできた。
🚉 「ガタン、ゴトン……!」
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佐藤は迷わず飛び乗った。
扉が閉まり、ホームがゆっくり遠ざかっていく。
スーツの男たち、そして無表情な駅員。
彼らは動かず、ただ佐藤を見送っていた。
電車は、やがて夜の闇へと消えていった。
エピローグ:翌朝
目が覚めると、そこは会社のデスクだった。
「……夢?」
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スマホを開くと、昨夜の記録は何もない。
だが、デスクの上に──
🎫 『夜ノ駅行き 一名様』
佐藤はそれを震える手で握りしめた。
──昨夜、俺はどこにいた?
さて、あなたの最寄り駅は、本当に“現実”の駅かしら?
次に降りる駅が、あなたの知る場所とは限らないのよ……?
次の夢ファイルでお会いしましょう。
どうぞ、良い夢を──。