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夢ファイル #002『鏡の家』


夢ファイル #002『鏡の家』

📁 記録者:貴美子
📅 日付:20XX年XX月XX日
📍 ファイルステータス:未解決


「ねぇ、あなたは鏡の中の世界を信じる?」

毎朝、鏡の前で顔を洗い、髪を整える。
変わらない自分を確認し、いつも通りの一日が始まる。

── でも、本当に「それ」は、あなた自身なのかしら?

鏡の向こう側に、もう一人のあなたがいたら?
そして、そちらが本物で、あなたが偽物だったとしたら……?

今日の夢ファイルは、“鏡の家”に迷い込んだ男の話よ。
ゆっくり、ページをめくりましょう──。


破格の洋館と“ありえない”違和感

🏡 「築100年の洋館、家賃3万円」

高橋直人(28)、会社員。

彼は今、引っ越しを考えていた。
これまで住んでいたワンルームのアパートは狭く、静かな環境に住みたかった。

ネットで物件を探していたある夜、目を疑うような物件を見つけた。
築100年の洋館、家賃3万円

「……安すぎる。」

東京では到底ありえない価格だ。
写真を見る限り、広くて雰囲気のあるレンガ造りの洋館。
少し古びてはいるが、きちんと手入れされているように見える。

── しかし、違和感があった。

説明欄には「入居者が長く定着しない物件です」と、ひとこと書かれていた。
理由は書かれていない。

(出るのか……?)

少し考えたが、直人は不動産会社に連絡し、内見を申し込んだ。


静寂の洋館と“異様な数の鏡”

翌日。

不動産会社の担当者とともに現地へ向かうと、その家は想像以上に大きかった。
映画に出てくるような、古びた洋館。

🚪 重厚な木製の扉、歴史を感じさせる赤レンガの壁。
🌳 庭には朽ちたブランコと、枯れた噴水が静かに佇む。
🕰️ まるで時間が止まったような静寂。

「……不気味ですね。」

不動産会社の担当者が苦笑した。

直人は扉を開けた瞬間、妙な感覚を覚えた。
まるですでにここに来たことがあるような、デジャヴのような感覚

だが、それ以上に気になったのは──

家中にある異常な数の鏡だった。

リビング、廊下、寝室、浴室、階段の踊り場。
どこを見ても、鏡が不自然なほど多い

しかも、それらはすべて同じ方向を向いている。

まるで、どこかへ“誘導”するように。


引っ越し初日──異変の始まり

「まぁ、安いしな……。」

結局、直人はその家に決めた。
荷物を運び入れ、部屋を整理していると、ふと目に入る。

鏡。

いくつもいくつも、鏡。
それも、どうしても視界に入り込む位置にある。

「……落ち着かないな。」

直人は翌日、布を買ってきて、一部の鏡を隠した。
だが、その夜──

🌙 「カチッ、カチッ……」

時計の針の音が、異様に大きく聞こえた。
目を覚まし、リビングへ向かうと──

鏡の中の自分が、微かに遅れて動いた。


「こっちへおいでよ」

🪞 鏡の中の自分の笑みが、ほんのわずかに違っている。

🪞 直人の知らない“歪んだ笑み”を浮かべていた。

「……?」

その時、鏡の中の“自分”が囁いた。

── 「こっちへおいでよ」

直人は恐る恐る、鏡に手を伸ばした。
すると、指先が水面のように揺れた。

「な……?」

鏡はガラスではなく、まるで別の世界への“入り口”のようだった。


“もう一人の自分”がやってくる

直人は慌てて手を引いた。

その瞬間──

🪞 鏡の中の“自分”が、すっと手を伸ばした。

「入れ替わろうよ。」

次の瞬間、鏡の向こう側から手が飛び出し、直人の肩を掴んだ。
強い力で引きずり込まれる。

「やめろ……!」

直人は必死に抵抗した。

── だが、翌朝、目を覚ますと、何かがおかしかった。

家具の配置が少し違う。
窓の外の景色が、わずかにズレている。

そして、鏡の中の自分が……。

「──ニヤッ」

明らかに、直人ではない笑みを浮かべていた。


エピローグ:偽物の住人

翌日、直人の友人が訪ねてきた。

しかし、何度チャイムを鳴らしても反応がない。

ふとリビングの窓を覗くと──

🏡 直人が、笑顔でくつろいでいた。

「なんだ、いるじゃないか。」

しかし、その瞬間、友人は戦慄した。

── リビングの鏡に映る直人の口だけが、こう動いた。

「ここから、出してくれ……」



ねぇ、あなたが毎朝見る“鏡の中の自分”……。

それが本当に“あなた”だと、どうして言い切れるのかしら?

あなたの知る“あなた”は、表側にいるはずだものね。

でも、もしも今、裏側にいるのが“本物”だったら?

「……え? それなら、あなたは今どこにいるの?」

──次の夢ファイルでお会いしましょう。どうぞ、良い夢を。



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