急に幽霊が視えるようになった話。

ど田舎出身の私です。

豚汁を「ぶだづる」と呼び、最寄りのコンビニは山を越えて車で10分。
どこがコンビニエンスやねん。

先祖が元地主で農民に呪われてたとかいう、意味不明すぎる実家で私が幽霊が視えるようになった時の話。
ちなみに今は視えないし、そもそもあれらが幽霊だったのかもわからない。
過剰なストレスで一時的に精神に異常をきたしていた、ということも考えられる。
幽霊とかUFOとかの存在は否定しません。
いたら面白いよね。

時は私が10代、思春期に入った頃に遡る。
少し複雑な家庭に生まれた私は父に引き取られ、祖母に育てられたのだが、早々にこの父を亡くした。
病気であることを隠し通し、周りが気付いたときには手遅れという状況で、長い闘病の末に息を引き取った。
なんだかんだ父親ウゼーとか思っていた私は、まさかそんな急に亡くなるとは予想もしておらず、面会にも行かないクソガキだった。
友達と遊びたかったし、ゲームもしたい。
もしくは、父親がいなくなるという現実から目を背けたかったのかもしれないが。

とにかく私はこの決断をしこたま後悔することになる。
そしてしこたま病んだ結果、視えるようになった。

あれは確か父の葬儀の日だったろうか。
親戚たちが家に集い騒がしい我が家が、静けさを取り戻した夜だった。

まず話の前に家の間取りを大公開しちゃおう。
我が家は玄関を入ると廊下を挟んで右手に居間、左手に奥の間があった。
廊下をまっすぐ行くと階段があって、それを上ると父の部屋、私の部屋、客間。
なんということでしょう、夢の5LDK。
そしてこのとき私がいた居間は、扉が全面すりガラスだったために誰かが立っているか分かる仕様だった。

父の兄弟たちが残っているといえどだいぶ静かになったなぁ、なんて思いながらテレビをぼんやりを見ていたときだった。
すりガラスの向こうに、玄関から誰かがのっそりを上がってくる黒い姿が見えたのだ。

誰だ?

田舎なので夜寝る直前でなければ施錠はしなかったし、不幸があった日は朝な夕なと親戚からご近所さんまできてくれるので、誰か来たかと思ったが上から下まで全身黒いとはどういうことだ。肌色が一切見えない。

これは影だ。

しかもでかい。
その影は廊下をまっすぐ進んでいったので、姿を見てやろうと思い、居間を出て階段の方を確認しても誰もいなかった。
タッパのデカさからして、おそらくあの影は父だろう。

父は昭和の日本人男性にしては背が高かった。
180cm以上あって、戸をくぐるときはいつも腰を屈めていた。
これは個人的には笑える不謹慎な話だが、長身が災いして棺桶に入りきらなかったのだ。
(これを笑うとは酷い娘である)

四十九日を過ぎるまで魂は軒の下にいるという。
夏場とはいえ、夜は冷えるからもしかしたら自分の部屋で暖まりたかったのかもしれない。

これが私のはっきりとした幽霊(?)とのエンカウントだった。
そこからちょいちょいと家の中で、色んな人を見かけるようになる。

ある日のこと。
毎朝祖母は御霊供膳を用意していて、それを仏壇に供えるのは私の役目だった。

「これ、仏様さ上げてこいや」
(訳: これ、仏壇にお供えしてこい)

夏休みでずっと家にいた私は、祖母の声に重い腰を上げた。
なんてレイジーな孫。

しっかりとした御霊供膳は重たかった。
これを齢70か80の祖母が持つというのは辛かったろう。
よいしょ、と勢いをつけて持ち上げ、奥の間へ向かおうと居間を通りすぎようとした時だった。

目の前を、子供が横切ったのだ。


「!?」

思わずバランスを崩しそうになって、ガチャンっと音が鳴った。

「なしたや!まがしたのが!?」
(訳:どうした!こぼしたの!?)

あまりにも驚いて周りを確認したが当然ながら私と祖母の二人暮らしだ、誰もいない。
黄色い帽子を被った小学生くらいの男の子なんて、いるわけないのだ。

私が転びそうになったと勘違いした祖母はため息をついた。

「まんずおめだらよ、かちゃかちゃしてほんつけねっけ」
(訳: 全くお前は、落ち着きがなくてどうしようもないね)

違うんだよばーちゃん。
目の前を誰かが横切ったんだよ。
あとこぼしてません。

「まだ寝ぼけてんでねぇのが。わらすだっきゃおめしかいねぇべよ」
(訳: 寝ぼけてんのか?子供はお前しかいねぇだろ)

Oh…

結局あれが誰だったのかはわからないままだ。
その後も、夜中に誰かに足を引っ張られて怖い思いをしたり、後ろから気配がしたり、めっちゃ謎に肩は重くて辛いし、2階に誰もいないはずなのに足音がドタドタ聞こえて家にいられなくなったりした。
(今になって思うと、肩の重さは太りすぎだし、足音については家鳴りだろう)

そんな心霊的なものも、やがて視えなくなった。
色んなことが重なったのと自分の性格の悪いところが災いして慢性的な胃炎、そして拒食のような状態になり「これはおかしい」と気づいた叔母に心療内科へ連行されたのだ。
この叔母には感謝してもしきれない。

不幸なことといえば所謂「厨二病」を拗らせていたので、一時的にでもこのような体験をしたことで「私は選ばれし者」と壮大な勘違いを引き起こしてしまったことだろう。
...書いていて辛くなってきた。
自分の中でこの頃は暗黒時代と呼んでいるので、できれば詳細には思いだしたくない黒歴史の中の黒歴史である。

あーーーーーー。

枕に顔を埋めて、呻きながら足をバタバタしたい。
話が逸れてしまったが、そんな私の経験。
今では子供たちに「幽霊っていると思う?」と訊かれる立場だ。
そんなときに決まって私は言う。

「いたら面白いよね」

科学や理屈で存在を否定することは可能だろうが、この世知辛い世の中で、ちょっとくらい訳のわからない不思議なものがあったっていいと思うのだ。

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