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ヴァカンス日記: 小石を売る少年

小さな芸術家の作品を買った。

フランスとスペイン国境の麓の、初めて訪れた小さな海辺に滞在して数日経つ。ディナーに向かう道すがら、海沿いのアパルトマンの植え込みの端に、子どもの手のひらサイズの平べったい石に絵が描かれたものが並べられて、値段がついていた。

小さな男の子が、傍に静かにじっと立っていたので、フェンス越しに「これは君の作品なの?」と尋ねた。

ひと息飲み込んで、目をキラキラさせた少年は、ハキハキと「そう、こっちはお姉ちゃんの。こっちは僕が書いたの」

そういえば、前夜は2人でそこにいるのを見かけたのを思い出した。

「どれもいいから迷うわね。値段を教えてくれる?」

「20サンチームのは全部売れちゃったから、今残ってるのはどれも50サンチーム」

右端のものを選ぼうとしたら、傍から夫が耳元で「それは彼のじゃなくてお姉ちゃんのだよ」とささやいたので、はっとして、左側の中から選んだ。

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コインと代わりに受け取ろうとして、「ところで、作品にサインをお願いします」

キョトンとする少年に、「作品には自分のサインを入れなくちゃ。今日の日付も書いてね」と言ったら、瞳を輝かせながら「ちょっと待ってて。」と庭の方へ走って行ったかと思うと、ペンを持って戻ってきた。

アルファベットを1つずつ大文字で丁寧に書いていく。7文字の名前なのに2行になったところを見ると、たぶんまだ慣れていない…小学校1年生くらいなんだろうか。夏休みのいい思い出になってくれたら嬉しい。

息子が小さかった頃に、海できれいな石を大切に持ち帰ったり、大きな石に、やっぱりこんな風に絵を描いていたのを思い出して…この話を伝えたら、一緒に愉しんでくれるかもと想像して、なんともいえない幸せな気持ちになった。

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Kimiko Botti / ボッティ喜美子
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