建築家とコストダウンを考える。シンプルな住まいの価値
注文住宅において「建築家に依頼すると高額になる」というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。しかし、実際には建築家こそが合理的なコストダウンを実現するパートナーです。建築家は無駄な装飾や不必要な足し算を排し、本質的な「暮らしやすさ」と「美しさ」を追求します。
足し算ではなく引き算の設計
建築家と家づくりをする際の重要な考え方の一つが「引き算の設計」です。建築家は、すべてを詰め込むような設計ではなく、本当に必要な要素を厳選し、それを最大限に生かす方法を模索します。無駄に建築面積を広げるのではなく、使いやすさと効率性を重視しながら、住まい手の暮らしに合ったプランを提案します。
例えば、藤本誠生氏の設計では「足し算をしない」という姿勢が貫かれています。窓を必要以上につけない、過剰な内装を施さないといったシンプルな設計は、ただコストを抑えるだけではありません。それは、自然光や風通しを効果的に取り込み、素材そのものの魅力を引き立てるためでもあるのです。
シンプルだからこそ映える自然素材
建築家が好むのは、経年変化を楽しめる自然素材です。無垢材、漆喰、石材といった素材は、年月を重ねるごとに味わいを深め、住まいに個性を与えます。自然素材の魅力は、人工的な装飾に頼らずとも、住まい全体に調和と温かみをもたらす点にあります。
例えば、床材には無垢の木を使用することで、毎日の生活の中で足裏に温もりを感じることができます。また、壁には漆喰を使うことで、室内の湿度を調整し、快適な空間を保つ効果が期待できます。こうした素材選びは、見た目の美しさだけでなく、住む人の健康や快適性にも寄与します。
定番建材がもたらすコストメリット
建築家がシンプルな設計を好む理由の一つは、コストを抑えながらも高いクオリティを維持できる点です。昔から使用されてきた定番建材を取り入れることで、コストを抑えると同時に、信頼性の高い住まいを実現します。
たとえば、定番のガルバリウムの屋根や塗り壁は、耐久性に優れているだけでなく、日本の気候風土に適しています。また、窓の配置を厳選することで、窓の数を減らしつつ採光や通風を確保する設計が可能です。このような工夫により、住まいの機能性を損なうことなくコストダウンが図れます。
シンプルな設計が生む豊かな暮らし
シンプルな設計には、美しさだけでなく、暮らしやすさという大きな魅力があります。例えば、装飾の少ない室内は、掃除がしやすく、家事の負担を軽減します。また、視覚的にもスッキリとした空間は、心を穏やかに保つ効果があります。
さらに、シンプルな設計は家族の変化にも柔軟に対応できます。子どもが成長し部屋を仕切る必要が生じた場合でも、シンプルな空間はリフォームや模様替えが容易です。こうした可変性の高さは、長い目で見たときに大きな価値を生み出します。
建築家とのコラボレーションで見える可能性
建築家とともに家づくりを進めることで、自分たちが想像していた以上の可能性に気づくことがあります。建築家は、住まい手の希望を引き出し、それを洗練されたデザインに落とし込むプロフェッショナルです。
例えば、「リビングを広くしたい」という漠然とした希望に対して、建築家は「視線の抜け感」を考慮した窓の配置や吹き抜けの設計を提案するかもしれません。また、「キッチンを使いやすくしたい」という希望には、家事動線を考えたレイアウトや収納スペースの配置を計画してくれるでしょう。
こうしたプロセスを通じて、住まい手自身が気づいていなかった本当のニーズや理想が浮かび上がり、それが住まいの形に反映されていきます。
無駄のない美しさを追求する家づくり
建築家とともに家づくりをすることで、シンプルながらも豊かな住まいが実現します。それは、無駄を省き、本質的な美しさと機能性を追求した結果です。経年変化を楽しめる自然素材、コストパフォーマンスの高い定番建材、そして住まい手に寄り添った設計。この三つが揃うことで、長く愛される住まいが生まれるのです。
「建築はなるべく意匠的にキャンセルできるものを検討する」という姿勢は、住まいづくりにおける重要なヒントを与えてくれます。それは、足し算ではなく引き算の美学によって、本当に必要なものだけを残すという考え方です。
家づくりをこれから始める方にとって、このブログがシンプルで豊かな暮らしを実現するための一歩となれば幸いです。
写真:監理・設計 藤本誠生建築設計事務所 (福岡市K邸)