消費税は「預り金」? インボイス制度開始で巻き起こった論争を解説します
インボイス制度反対論者が声高にいう消費税は預り金じゃない問題
インボイス制度の反対活動が今更ながらに盛り上がっている人がいる状況ですが、その人たちがよく言う「消費税は預り金じゃない」「免税事業者の益税なんて存在しない」という話。これは従来の一般的な認識とかなり違う考えなので、急に言われると「え?」とサプライズになりますよね。だから、話を聞いてもらう導入によく使われているわけですが、この二つの意見をちゃんと説明している文章ってあまり見ないんですよね。だから、私なりに解説していこうかなと思います。まずは、消費税は預り金かそうじゃないか問題から。
税法上は「預り金じゃない」で正解
反対論者の人たちが声高に言っている文章とか動画を見てもらうのが早いですが、先に結論を言うと、この考えは〇です。計算ロジックもそうなっておりません。
税法上も明らかに「預り金」になってるのは、源泉所得税ぐらいでしょうか。給与や報酬から勝手に天引きされる忌々しいアレです。これは、会社が代理徴収する金額と、税務署に納付する額が1対1対応しているのです。
ところが、消費税の仕入税額控除はそうなってません。消費税申告納税額の計算に使うだけです。1対1対応してないのに「預り金」は理屈としておかしいでしょという話。ごもっともです。
消費税の本則計算だと、消費税は「預り金」であるかの如く計算
では、何故、「消費税は預り金」と言われているか。それは消費税の一番オーソドックスな計算方法が消費税を「預り金」であるかのごとく計算しているからです。ごとく。ただ、これを説明しようと思うと中々に大変……。noteで説明しようとしたら、この記事を読んでる人全員が途中脱落する事間違いなしなので、ここでは省略します。
会計の世界では、どっちもあり!?
以上が税法の世界での解釈ですが、消費税を知るにあたってもう一つ知らなければいけないものがあります。それは何かというと、会計の世界での解釈です。
これを知るのが、今回の意見対立の理由が見えてきます。
まず先に結論をいいますと、会計の世界では「預り金」とみる考え方と「預り金」とみない考え方の2つが混在しているのです。まじで。
消費税を「預り金」とみる税抜処理基準
まずはスタンダードな考え方、税抜方式です、。
これは消費税を「預り金」とみなします。
具体的に、例えば100円+10円(税)の売上の仕訳は、
売掛金110 / 売上高 100
仮受消費税 10
100円+10円(税)の仕入の仕訳は、
仕入高 100 / 買掛金 110
仮払消費税 10
となります。
この、「仮受消費税」「仮受消費税」がいわゆる会計上の「預り金」になる訳です。
消費税の入出金があっても損益に影響が出ませんからね。
そして、仮受消費税と仮受消費税の差額が、だいたい消費税の納税額になります。
完全一致しないのがミソ。1対1対応してないですからね。
その差額だけ損益認識します。
その差額、中小企業だと、たいてい数百円。
売上高数千億の大企業でも、数万円レベルです。
ほぼ、無視できるレベルの損益影響です。
上場企業だとこの会計処理しか認められていません。
非上場企業でも、ほとんどの企業が税抜処理基準で会計処理してます。
なので、「消費税は預り金」の発想が特に会計クラスタを中心に強く根付いている訳です。
消費税を「預り金」とみない税込処理基準
そして、消費税を「預り金」とみなさない税込方式。
こちらの会計処理は極めてシンプルで、消費税額も込みで会計処理します。
先ほどの例で言えば、、
売掛金 110 / 売上高 110
仕入高 110 / 買掛金 110
と会計処理します。
なんと、税抜方式より売上高が10%も増えちゃう!
でも、いいんです!税法で認められた処理です。
取引(特に支払側)によって消費税が発生したりしなかったりするのですが、そういう消費税の判断が記帳時に要らなくなるので、会計初心者に安心の会計処理方法です。
そして、消費税の納税額を「租税公課」として費用処理します。
消費税は預り金じゃないのて、納税額は会社の費用です。
納税額は、売上高数億円の会社でも何百万円になるので、税込方式だと決算で多額の損益変動が出ます。
納税額全額が費用ですからね。
税抜方式と全然違います。
この税込方式、会計の世界ではマイナーな会計基準ですが、この会計処理しか認められない場合があります。
免税事業者です。納税しませんから、預り金はあり得ないって意味なんでしょう。
あと、簡易課税制度利用者も、仕訳ごとの消費税設定がなくとも記帳と消費税計算ができるので、税込方式で記帳しているのをよく見かけます。
実家のラーメン店も税込方式でした。
結局、消費税は預り金?非預り金?
長くなりましたが、ここから結論。
消費税を本則課税で納税し、税抜方式で会計処理している世界から見れば、消費税は「預り金」に見えます。
一方で、消費税を納税していない、税込方式で会計処理している世界から見れば、消費税は「預り金」には見えません。費用です。
そういう事なんです。どっちも正解なのです。
全企業が本則課税で消費税を納税し、税抜方式で会計処理していれば、消費税は「預り金」とかなり言い切れるのですが、
様々な消費税上の特例制度、免税事業者の存在や簡易課税制度がある為に、消費税が「預り金」の性質を失い、インボイス制度反対論者の言い分が真実味を与えるのです。
しかも、免税事業者や零細企業にとっては、消費税が「預り金」じゃない世界観の方が真実味を持つのです。
そして、この2つの世界観が実は『益税』あるなし論争も影響してきます。
その話は、また次回に………。