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4月7日に行われたロシアの国連人権理事会理事資格停止に関する国連総会議決について。
4月7日に行われたロシアの国連人権理事会理事資格停止に関する国連総会議決は、賛成93、反対24、棄権58という結果であった。
反対票を投じた国の中に、中国の他、ロシアの衛星国であるベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズペキスタン、また、同盟国であるボリビア、キューバ、北朝鮮、エリトリア、イラン、シリア、が含まれていたのは予想通りであったが、アルジェリア、ブルンジ、中央アフリカ、コンゴ、ガボン、マリ、ジンバブエといったロシアが近年影響力を強めているアフリカ大陸の国々が積極的に反対票を投じたことは深刻に受け止める必要がある。
フランス、ベルギー、イギリスから独立したこれらのアフリカ諸国は、その後旧宗主国との関係がうまくいかず、次々にロシアとの関係を強めた。ロシアは主に治安維持や軍事技術を支援、また、ロシアとコンビを組む形で経済支援を担う中国が入り込んだ。その結果、これらのアフリカ大陸諸国では、かつてのフランス、ベルギー、イギリスの代わりに、ロシア・中国の連合体が実質的に旧宗主国の役割を担っている。これらのアフリカ諸国が、反対票を投じたのは、ロシアへの配慮というだけではなく、自身の国における人権状況の悪さを国際社会から指摘されていることに対して、暗に抗議を表明する意図で反対票を投じたとみるべきであろう。
また、今回反対票を投じた国の中に、ベトナムが含まれている。国境を接する中国との間で緊張関係があるベトナムは、軍事面でのロシアとの関係が強いが、ロシアのウクライナ侵攻開始直後に行われた国連総会緊急特別会合でのロシア非難決議の際には、反対ではなく棄権であったので、今回は態度を一歩強めたことになる。
今回の議決は、ロシアがウクライナで行った筆舌に尽くしがたい凄惨な民間人の大虐殺を受けたものであるが、それにもかかわらず、棄権が58ヵ国もあったということも注意してみる必要がある。棄権した国には、ボツワナ、カメルーン、ガーナ、ナイジェリア、セネガル、タンザニアのようにアフリカ諸国も含まれるが、サウジアラビア、UAE、オマーン、カタール、クウエート、イラク、という中東の主要国が軒並み含まれている。これは、アメリカが政治的に中東から手を引いたことにより、これらの国々がアメリカの意向をくむことなく中立の立場に傾倒しつつあることを示しているといえる。
また、東南アジア主要国であるマレーシア、シンガポール、タイ、が棄権したことも注意をしてみる必要がある。中国に対して対立を深めるアメリカの姿勢が、こうした東南アジア諸国の姿勢を中立的な方向になびかせる遠因となっていると考えるべきであろう。また、オブラドール政権で国粋主義色を強めるメキシコ、ロシアとの関係を重視するボルソナーロ政権のブラジルというラテンアメリカの2大国も今回棄権している。ロシアと軍事的・経済的結びつきが深いインドは、反対票ではなく、棄権という中立的な姿勢にとどめた。
こうしてみると、ロシアを国際的に孤立化させているとは言い難い実情が浮かび上がる。ロシアに対する制裁を一方的に強化するだけでは、実効性を担保するのが難しいのはこうした事情がある。背景にある複雑な国際事情は、ロシアだけではなく、アメリカの中東や東南アジアにおける影響力の変化、アフリカ大陸で旧宗主国が抜けた後の政情不安定化、などが相互に関係しており、状況を複合的にみていく必要がある。
(Text written by Kimihiko Adachi)
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