ウクライナ情勢をめぐる外交交渉について-04
ウクライナ情勢をめぐるアメリカ・NATOとロシアの交渉が行き詰まりの様相を呈する中で、ヨーロッパ主導のもとフランスとドイツが仲介するノルマンディーフォーマットに基づく会談がパリで行われた。
ヨーロッパ時間本日26日に正午過ぎからフランス・マクロン大統領がパリ・エリゼ宮にウクライナ、ロシア、ドイツの外交・安全保障関係者を招集して行われた今回の会談は午後8時すぎまで続けられた。ロシア・クレムリンからは大統領補佐官として東ウクライナ問題を直轄するコサック氏が参加したことから、ロシア側の会談に対する姿勢が当初想定したよりも真剣なものであるという印象を受けた。会談が長時間に渡ったことも、前向きなサインと受け取れる。
会談後にコサック氏によるロシア単独での記者会見が行われたが、その内容も前向きなものであった。コサック氏が明らかにしたのは、東ウクライナ紛争地域であるドンバスでの完全な停戦をまず実現すること、またドンバスの安定化を取り決めたミンスク合意のプロセス詳細について当事者間でコンセンサスを形成すること、を中心に今後協議していくことで合意したという。
また、次回の会談は2週間後に同じレベルのメンバーでベルリンで行い、前向きに進めばウクライナ、ロシア、フランス、ドイツの首脳によるサミットを行い、ドンバス地域の今後の自治の方向性を問うための選挙の実施プロセスを取り決めるという。この一連のプロセスは、ミンスク合意で取り決められていた内容と一致しているので、今後の協議が進展すれば2019年から実質的に休止状態にあるマンディーフォーマットがこれを機に晴れて再開するということになる。
コサック氏の認識では、このノルマンディーフォーマットのプロセスはアメリカ・NATOとロシアで行なわれている協議とは切り離して進められるということであり、この点からもロシアの主眼がミンスク合意の実現による東ウクライナ問題の解決にあるということを示唆していると受け取れた。
ロシア側がノルマンディーフォーマットの再開に前向きであるということは朗報だが、問題はウクライナ国内にあると筆者は考えている。2019年のウクライナ大統領選挙で前任者ポロシェンコ氏を破り就任した現在のゼレンスキー大統領の元で、ドンバス地域をウクライナ側に取り戻そうとする動きが強化されており、ノルマンディーフォーマット開始時の2014年当時のように親ロシア勢力にこの地域の自治を任せるという当初の構想とは逆のベクトルが働いているのが実態だからだ。
さらに懸念されるのが、前大統領ポロシェンコ氏とその支持者の動きだ。この勢力は、親欧米という路線では現職ゼレンスキー氏と同じだが、支持母体が守旧派オリガルヒから形成されているという点が異なり、次回の2024年大統領選を目標にゼレンスキー氏と激しい政治抗争を繰り広げている。
ポロシェンコ派は東ウクライナ問題をめぐるロシアへのアプローチに関してもゼレンスキー氏の姿勢が手ぬるいと批判を繰り広げており、ゼレンスキー政権としては足元の国内政治をうまく掌握していくことがロシアとの交渉を前進させる鍵になる。ウクライナ情勢は国内外ともに多くの問題が複雑に絡み合っており、単純なマトリックスで捉えることはできないので、状況把握には注意が必要だ。
(Text written by Kimihiko Adachi)
(C)_Welle_Kimihiko Adachi_all rights reserved_2021_2022(本コラムの全部または一部を無断で複写(コピー)することは著作権法にもとづき禁じられています。